表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

黒髪の傭兵と血の幕開け

朝靄が村を覆い、鳥たちの囀りが窓の外から届いていた。アリシアンは、柔らかなシーツの感触を背に感じながら、ゆっくりと瞳を開けた。まだ眠るリーナが、自分の隣で静かに寝息を立てている。栗色の髪が枕に広がり、白い頬には赤みがさしていた。


「ふふ……無垢な寝顔。昨夜の緊張が解けたのかしら」


アリシアンは布団をそっと抜け出すと、上体を起こし、背伸びをした。鍛え上げられたしなやかな肉体が、朝の陽光に美しく浮かび上がる。ネグリジェの紐が肩から外れかけており、豊かな胸元が揺れた。窓辺に歩み寄り、手を伸ばして窓を開ける。冷たい空気が室内に入り込み、長い黒髪が揺れた。


「……良い朝ね。血が騒ぐわ」


その声に、リーナが小さく身じろぎをする。まどろみの中でまぶたを開け、アリシアンの後ろ姿に目を留めた。


「……アリシアン、さん……?」

「おはよう。よく眠れたかしら?」


アリシアンは振り返り、艶やかな微笑を浮かべる。露出の多い装いのままでも、その姿勢には品と威厳があった。リーナの顔が一気に赤く染まる。「昨日」の一部始終が、鮮やかに脳裏に蘇る。


「わ、私……その……昨晩、すみませんでした……っ! 勝手に、部屋に……」

「ふふっ。あなたが来たのよ。断る理由なんてなかったわ」


アリシアンは柔らかに言って、ベルトを締め直しながら視線を向けた。


「でも……少しは覚えてるのね?」

「~~っ!」


リーナは耳まで赤くして、布団を頭までかぶってしまう。アリシアンはその様子を愛おしげに見下ろした。


「可愛い子ね……」


そう呟き、身支度を整える。


「……もう行くんですか?」


布団から出てきたリーナが、不安げに声をかける。


「ええ。ギルドの依頼、果たさなきゃね。あの森に『悪』がいるんでしょう?」


ドアから出る時のリーナからの呟きに、アリシアンはふと立ち止まった。


「……また、会える……?」


それにアリシアンは微笑んだ。


「もちろんよ。可愛い子を泣かせるような女じゃないわ、私」


その言葉を残し、アリシアンは静かに扉を開けて出ていった。


 



 


ダークウッドの森は、湿った空気と陰鬱な木立に包まれていた。だが、アリシアンは足取り軽く、真紅のマントをはためかせながら進む。


「山賊退治なんて、久しぶりね。少しは楽しませてくれるといいけれど」


道なき道を進むこと数分、視界が開けた。木々に囲まれた広場に、粗末なテントと焚き火。山賊のキャンプが見えた。焚き火を囲む男たちは、酒を手にどんちゃん騒ぎ。その笑い声が、アリシアンの到着とともに止まった。


「おい、誰だ、てめぇは……?」

「お嬢ちゃん、迷子かい? その格好で一人とは、色々と都合がいいな」

「そのでっけえ胸、味見させてくれよ。優しくしてやるからよぉ」


アリシアンは深く溜息をついた。


「……最低。言葉の端から腐臭がするわ。

聞かせてあげる、貴方たちにぴったりの言葉は死の宣告よ」


その瞬間、空気が一変した。アリシアンから放たれた殺気が、刃物のように山賊たちの肌を刺す。


「ビビるなッ! ただの女だ! 可愛がってやれ、ひと暴れしたら、俺達のメスにしてやれ!」


頭領の号令で、十数人の男たちが一斉に武器を構える。


「ディメンション・ゲート」


アリシアンの手が虚空を裂く。そこから紅に輝くハルバード、ブラッド・ハーヴェスターが現れた。


「それじゃ……始めましょう。悪は、斬る」


一人目の山賊が斬りかかった瞬間、血飛沫が宙を舞った。彼の体は宙で捻れ、地面に落ちる頃には二つに分かれていた。


「な、なんだこの女……!」


だが、恐怖に囚われた山賊たちは、もはや体が動けないい。

アリシアンは、舞うように斬った。鮮やかな回転とともに斬撃が放たれ、次々と男たちが薙ぎ倒されていく。


「フレイム・ヴォルテックス」


地を踏み鳴らし、彼女が詠唱を紡ぐ。魔晶石が輝き、地面から巨大な炎の渦が立ち上がった。山賊たちは絶叫を上げ、火に呑まれていく。


「ぎゃあああああっ!!」


静寂の後に残ったのは、焼け焦げた遺骸と、震え上がる頭領ひとり。


「ひっ……ま、待ってくれ……っ! 命だけは……命だけは……っ!」


地面に額をこすりつけ、涙と鼻水を垂らしながら命乞いする男。アリシアンはその姿を見下ろし、冷たく吐き捨てた。


「……男の命乞いほど、見苦しいものはないわね。吐き気がするわ」


そして、彼女は一歩踏み込み、静かに、しかし鋭くハルバードを振り下ろした。


首が宙を舞い、赤い飛沫が地面を染める。彼女は何も言わず、それをディメンション・ゲートへと仕舞うと、マントを翻し、静かに踵を返した。


「さ、ギルドに報告ね……」


その声はどこか、嬉しげだった。


 


アリシアンの冒険は、まだ始まったばかり。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ