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禍話派生シリーズ

仲良し親子?:トイレには行かない方がいいんじゃないかなぁ、というお話

作者: 吉野貴博

 トイレには行かないほうがいいんじゃないかって話なんですけどね、変な人たちに絡まれちゃったら行かないほうがいいと思うんですよ。

 話を持ってきたのはサラリーマンで営業外回りをやってるAさんなんですけどね、Aさん、外を歩き回っていて、どんなに暑くても飲み物を飲まないんだそうです。

 汗っかきで汗がだらだら流れて上着まで湿っぽくなるんですが、不思議と熱中症にならず、どこまでも歩いて行けるんだそうです。

 ただAさん頻尿の気がありましてね、それだけ汗をかいても、一口でも水を飲むと、すぐおしっこに行きたくなるんだそうです。その頻度がかなりのもので、流れる汗だったらただ不快なだけですがトイレを探さないといけない、その煩わしさがあるので飲み物をほぼ飲まないんだそうです。

 ここ数年の酷暑でもそういう体質が続いていたんですが、その日は乗る予定だった電車が人身事故で乗れなくなってしまい、代替輸送の乗り物も混雑して全然乗れず、仕方がなく歩き始めたら、いつもと違って乗り物に乗るはずだった予定がくるったからか頭がくらくらしてきた、しかたがなく自動販売機でジュースを買って飲んだら、どうも血圧に悪影響が出たようで、飲んですぐ貧血になった、日の光を遮るものがない場所だったので気を失ったらそれこそ命にかかわるので意識が遠くなるのとの勝負で歩き出し、なんとか日陰に入って休めたそうなんです。


 ここまでが前段です。


 それ以降Aさん、さすがに水筒を持って外回りをするようになりました。

 水を飲んですぐトイレを探さないといけなくて、よく歩くルートだったらどこにトイレがあるのかはすぐ把握しました。


 その日、水を一口飲んで、トイレに行きたくなって、一番近いのはバス停のところにあるトイレだと進みまして、出ましたらね、バス停のベンチに人が座っていたんだそうです。

 壮年の男の人が日傘をさしていて、小柄な女性で、麦わら帽子をかぶってサングラスをかけて、顔の下半分を布で覆っている、男の人のお母さんかなと。

 別にどうということもありません、また次の営業先に歩き始めます。

 また水を一口飲んで、この先に公園があったなと行って、用を足してトイレを出ましたら、さっきの二人が公園のベンチに座っています。

 ……この近くでバスを降りたのかな?

 別に何も言うことはありません。歩き始めます。

 また水を一口飲んで、この先にデパートがあったな、エスカレーターで三階にあがってトイレに行って、出たら休憩用の椅子にあの二人が座っています。

 ……なんだこれ。

 薄気味悪いと思いはするのですが、二人は別にAさんに話しかけてくるわけでなく、見もしません、さすがにデパートの中で日傘はさしていませんが、二人でじっと座っています。

 デパートを出てまた水を…トイレに行くとあの二人がいるのか、と水を飲まず、次の営業先に行くのですが、今までの営業先は挨拶してちょっとやりとりするだけで出ていたけど今度は違う、少し打ち合わせが必要で、お茶を出されたんですね、手を付けないわけにもいかず飲みまして、出て、やばい、トイレに行って出たらまたあの二人がいるかもしれない、でも行かないわけにはいかないわけにもいきません、チェックしていた公民館のトイレに行って出たら、やっぱりあの二人が座っているんですよ、

 さすがに怖くなって、もう今日の営業周りは終わったし、直帰すると言ってあるので、Aさんが子どものころから親しんでいるお寺に向かったんですって、こんなの人間じゃないだろう!って。

 もう夕方になっていて暑くはなくなっているんですが、水筒に残っている水を全て飲んで、お寺に着きましたら、今は大きな、人が常駐しているお寺や神社って、営業時間があるのですね、もう閉める時間になっていて若いお坊さんが門を閉めようとしていた、そこに「助けてください!」と駆け込みましたら怒った口調で「はぁ?!」と言ってくるんですが、「ヘンはものに追われているんです!」、切迫感からお坊さんも「はぁ」とトーンを落としたんですけど、道を見ても誰も追いかけてくる人はいませんし、どこかに隠れたのなら見つけようがない、不審げにAさんを見るんですが、

「トイレ貸してください!そうしたら解ります!」と石段を駆け上がり、境内のトイレに駆け込んだんですね、

 用を足し終えて出たらお坊さんも上がってきていまして、「なんなんですか」と言ってくるんですけど、

 やっぱりいました、境内のベンチに二人が座っているんです。

 Aさん手を震わせて二人を指しましてお坊さんも見てびっくりです、誰もいないことを確認して門を閉めにいって、いきなり二人も座っているわけですから

「ちょっと、そこの人たち」と歩いていきます、「もう閉門です」と二人の前に立ち…そのまま座って黙ってしまいました。

 Aさん大声をあげて走って階段を降り、外に出て、その日はビジネスホテルに泊まったんだそうです。自分の家を知られたらまた怖いことになるだろうなと思いまして。

 翌日会社に行きまして、昨日と同じ服を着ていることに気が付く同僚もいます、Aさんもみんなに話したくて仕方がなくて「こんな怖いことがあったんだよ!」と言うのですが、話の筋だけにしてみますと、付きまとわれて怖いことは怖いですが何かをされたわけではないので、みんな「お、おぅ」くらいです、Aさんもみんなに話せてようやく落ち着いて、(なんだったんだろう)と過去形になりました。

 それからAさんまた水を飲まなくなり、営業先でお茶を出されても「ちょっとお腹の調子が悪くて」と噓をついて飲まないようにしているそうです。


 …で、私がそのお坊さんはどうなったんでしょうね?と質問しましたら、


 それから何日か経ってAさん神社に行きましたら、あのお坊さんが境内の掃除をしていたんですって。

 ああ無事だったのかと安心したら向こうもAさんを覚えていたようで、声をかけて片手をあげて近寄ってきた、Aさんの前に立つと、

「あの人たち、全部違う人でしたよ」

 ……何言ってんだ?

「あなた、あの人たちの顔や服しか見なかったでしょう、あの人たち、履いている靴が全部違うんですよ」

 言っている意味も解らないし、なんでそんなところを言うのかも解らなくて、もうそのお寺には行けなくなったんだそうです。

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