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第二章 幽霊城 21

 屋敷に押しかけてきた村の者たちの騒動を、アレックスはエントランスを見下ろせる二階の廊下で傍観する。エントランスに入ってきたのは、村の代表者と司祭、それにロイ・バーンズ巡査だ。他のものは、外で玄関ポーチを囲んでいるようだ。開いた扉の先が赤く揺らめいていたのは、彼らが掲げる松明の炎のためだ。ロイは村の者たちに、「冷静になれ! 今騒いでも仕方ないだろう」と呼びかけているが、怒気を漲らせている村の者たちの耳には入っていないようだ。ここに来るまでに、説得に失敗したのだろう。

 

「ジェファーソンさん、この数年でいったい何人の村の者が殺されたと思っているんですか。それも、すべてお嬢さまが領主となられてからだ。これが、偶然だと!? 先代の頃には、これほど頻繁に人が殺されることなどなかったのです。しかも、以前は朔の晩にのみ被害者が出ていたが、ここ数日……無関係に殺されている。昨晩もまた一人なくなったのですよ!」

 声高に叫ぶのは、黒い服をまとった教会の司祭だ。村の代表者と名乗る大柄な男は、猟銃を手に持ち、いつでも撃てる状態にしていた。他の村の者たちも各武装している。

「皆様のお話はわかりました。ですが、当家も今、ミランダお嬢さまの行方がわからなくなっているのです」

 困惑した表情を浮かべて、ジェファーソンが相手にしている。

「それが、なによりの証拠だろう!」

「ああ、そうだ。あの娘はエドナの生まれ変わりなのだ。でなければ、あれほど似るはずもない。やはり、吸血鬼だったのだ。先代が存命の頃に、やはり殺しておくべきだった!!」

 叫ぶ声がエントランスに響く。「ミランダは……違う。そんな俗信に惑わされんな!!」と、ロイが村の者たちの前に出て声を荒らげていた。「お前の役目は、殺人鬼を捕らえることだろう! 役立たずめ」と、怒声が飛ぶ。

「警察などあてにならない。我々の手で始末するしかないんだ!」

「ああ、そうだ。あの娘は人間じゃない。殺したところで、何の罪に問われる」

「私の娘も殺されたのよ!! あの子を返してちょうだいっ!! 返してよっ!!」

「この屋敷内に隠れていることはわかっているんだ。ジェファーソン、あんたも匿えば共犯だ! わかっているなら、あの娘をこの場に引きずり出せっ!!」


「皆様、お待ちください。この屋敷の中には……」

「いいじゃないか」

 落ち着いた声が、エントランスに響く。その場にいた全員が口を閉ざし、ゆっくりと階段を下りるアレックスを見ていた。「あの娘が連れてきたよそ者の貴族か」と、誰かが忌々しげに吐き捨てるのが聞こえた。

「あんたには関係ないことだ。首を突っ込まないでもらいたい」

 村の代表者の男が不愉快そうに眉間に皺を寄せる。

「関係ないとは言えないな。私は彼女の友人だ。友人が一方的に殺人者の汚名を着せられているのを黙って見ているわけにはいかないだろう?」

「友人だと? 情夫の間違いではないのか?」 

 誰かが嘲笑するように言う。ロイは険しい顔をして、「あんたは黙ってろ」とアレックスの肩を押した。だが、アレックスはその手を払って、ジェファーソンの隣に並ぶ。「

「今の発言は私だけではなく、彼女まで侮辱したことになるが……もし、彼女が犯人ではなかった場合、相応の罪に問われることになると覚悟の上での発言かな?」

 アレックスは目を眇めて、一同を見回す。誰もが気まずそうに視線を交わして黙っている。陰口は叩けても、堂々と発言する勇気はないらしい。そんな村の者たちを見て、アレックスは侮蔑まじりの笑みを浮かべた。


「どうせ、何の覚悟もなく、扇動されてやってきたのだろう。だが、君たちの行動は正当化されるものではなく、犯罪だ。そこのバーンズ巡査に聞いてみればいい。私刑など、そのような理由があろうとも認められてはいない。罪を暴くのも、裁くのも、すべて司法の手に委ねられている。わかったら、屋敷を出て行きたまえ。泥まみれの靴で入られては、ジェファーソンが迷惑する」

 アレックスは泥まみれになっている床と、玄関マットを指差して、あえて尊大な口調で言った。

「あんたになにがわかるっ!! 俺たちは、あの娘が生きている限り、この先も怯えて生きていくことになるんだ。そんなのはご免だ!」

「ああ、そうだ。あの娘を引っ張り出して調べればわかることだ!! 隠れているのは、疚しいことがあるからだろう。そうでなければ、領民が死んだというのにどこにいるというのだ!!」


「ジェファーソン、屋敷の中を捜索する許可をくれ。そうでなければ、村の連中も納得しないだろう。それに、ミランダを見つけることが今は最優先だ。何かあって行方がわからなくなっていることだけは、確かなんだ……」

 ロイが額に手をやって深く息を吐く。

「ですが……」

「ここまで言うんだ。好きにさせてやればいい。私たちも散々、屋敷の中を捜してまわったが見付からなかったんだ。村の者たちが見つけてくれるなら、それに超したことはない。バーンズ巡査がいるんだ。いきなり彼女に危害を加えるような真似はしないだろう? それと、屋敷を破壊した分の損害賠償は村の者たちに請求することになるから、気をつけてくれ」

「あんたに言われるまでもねぇよ!」 

 気に食わないとばかりにアレックスを睨んでから、ロイは村人たちに「屋敷の捜索は許可するが、早まった真似だけはしないでくれ」と頼んでいた。


 村人たちは「おい、行くぞ!」、「手当たり次第に捜せ!」と散らばっていく。

「あんたは捜さなくていいのか?」

 アレックスが訪ねると、ロイはチッと舌打ちして雨の吹き込んでいる玄関を出る。外にいる者たちに、庭園や馬小屋を調べるように指示を出しているようだ。


「アレックス様……」

 ジェファーソンが声を潜めて呼びかける。アレックスは微かに笑って、「後は任せておけばいいさ」と彼の肩を叩いた。


 床に残る血痕を見つけたと声が上がったのは、捜索から二時間ほど経ってからのことだった――。


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