第1話 我が生きる目的よ
初投稿です。
優しく見守って頂けると嬉しいです。
私は諸坂 舞。
妖幻界という世界で旅をしている。
この世界には多くの妖怪や付喪神たちが暮らしている。
そして、妖怪たちに付喪神たちが寄り添う形で町や集落をつくっている。
私が育ったのはサトリという種族の集落だった。
彼らは心を読むことができる。
思い浮かべたことの共有は彼らの十八番だ。
ただし、互いの意思表示は言葉だった。
彼らの生活を支えてくれている付喪神たちが心を読めないためだ。
サトリたちの集落には、必要な物はすべて揃えられていた。
生活や仕事や学習のための道具はもちろんのこと、生活を支えてくれる付喪神たちも、その道の達人たちに大事にされた、有能すぎる者たちが集められていた。
それは、偏に代々のサトリたちが、読心を駆使して巧みに交渉した結果だろう。
そんな中に居て、なぜか私だけが心を読めない。
サトリとしての徴も発現しない。
それに気が付いたときから、それを悟られないように必死に努力した。
相手を知り、表情・仕草・視線・声色などを読み取ることで、擬似的に心を読むことができるようにまでなった。
そして、心を読めないということを、できる限り考えないようにした。
今思えば、それは幼心ながらに仲間はずれにされたくないという恐怖を感じていたのかもしれない。
今は放浪しながら刀剣術の腕のみで生計を立てている。
個人主義すぎたり異邦人だったりして世間に馴染めなかった浮浪者の相手をしたり。
野生のものや飼われているものから何かしらの反感を買われてしまい暴走した妖獣や幻獣を手なづけておとなしくさせたり。
そんなことを生業としており、そこでは寸止めの武技を多用している。
幼い頃は里の長老の1人や古書の付喪神に師事し、生活に必要な知識を学習していた。
例えば、妖獣や幻獣について。
曰く、妖獣とは、言葉を話せず鳥獣の形をしている妖怪たちのことである。
曰く、幻獣とは、隣接する世界である人現界に過去に生息していて、すでに絶滅してしまった動物のことである。
学習ではそう教わった。
しかし、彼らに対する対応がいかに大変なことか。
里では皆が心を読んで対応していた。
そのため、妖獣たちや幻獣たちが襲ってくるということはなかった。
彼らは我々をよく見ている。
元はただの動物だった幻獣たちも、妖幻界に住んでいる時点である程度の知能を得ているのだ。
そんな彼らの気持ちを尊重することで、共存することができていた。
そうした座学と実践が柱であった学習の側らで、刀の付喪神が開いている道場に通い、刀剣術を基礎から教えてもらった。
付喪神は、過去の使い手の技能を現在の使い手で再現させることが可能だ。
何人もの使い手に大事にされた道具が至る付喪神。
そんな彼らの使い手たちが全く同じ使い方をしていたわけもなく、様々な流派の刀剣術を体験させてくれた。
走り込みや素振りで体を作り、座禅や滝行で心を作る。
師が次に進んで良いと感じると、新たに武技を伝授してくれる。
そんな日々を8歳から始めて7年間。
そこで感じたことは、私自身の心身が成熟していく速度や、周りと比べて異常に高い私の吸収力と応用力に対する違和感だ。
周りは20年近くかけて階段を上っていくのに、私は5年で免許皆伝、それから2年のうちに我流の体裁きをも編み出してしまい、そのあいだに学習も粗方終えてしまった。
そこで、武者修行として一人旅に出された。
遠く北の地には古書の付喪神たちが集まってこの世のあらゆる知識を収集し、系統立ててまとめたものを公開している場所があると聞く。
“私”は何者か、そして感じているこの違和感の正体は何かを探るためにその地を目指し、旅をしていた。
私は、ここしばらく休みなしで、山中の街道を通って旅をしていた。
なので、久々に体を休めるために、盆地にある宿場町で二泊し、再びその街道を進み始めた。
その矢先だった。
その道祖神を見つけたのは。
各街道には、道標が一定の距離で設置されている。
それを数えることで、おおよその進んだ距離を知ることができる。
しかし、その道標から少し進んだところに道祖神があった。
街道にあるということは道中の安全祈願のためだろう。
山中とはいえ街道なので、ほとんど危険がない普通の道であるはずだ。
宿場町で見せてもらった地図にも、この先の道中で注意すべきことは書かれていなかった。
なのに、道祖神が祀られている。
警戒感から辺りの気配を詳しく探る。
異常はないが、嫌な予感がしていた。
(――すぐにここから離れなければ!)
しかし、それは時すでに遅し。
突如として、私と同じような形や大きさの異様な気配が背後に現れたのだ。
そのことを感じ取ったときには、今まで周囲に感じていたほかの生物の気配が遠ざかっていた。
まるで背後のナニカに怯え、逃げていくかのように。
本能的な恐怖を感じ、固まる体。
覚悟を決めて振り向いた。
するとそこには、細い目で私を見つめる年若い女が居た。
処々に金と青のメッシュが入っている綺麗に整えられた白髪を腰丈まで伸ばしている。
その女は、何かを期待するような目をした無表情から一転、喜色満面の笑みを見せ、言葉を発した。
「Hi, My destination of my life.
言い直そうか。
やあ、我が生きる目的よ」
この作品を書き始めるにあたり、共作のお二人には大変お世話になっています。
この作品に目を止めて頂いたことに最大の感謝を申し上げます。