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4話『入試試験へ』

 簡易な柵が、大きな道を塞いでいる。

 どうやら、この先に通るには検問所のようなところを通らないといけないらしい。


 魔女はパッと見て、列が短い所に自分も同じようにして列に並んだ。


「そういえば、入学届けなんて私、出てないような」

「でもあの手紙には、お嬢の名前が確かに書かれてたにゃよ」


 魔女は届いた手紙を見直そうと、ポケットをさぐった。

 ポケットに入っていたのは、いくつかの魔石や髪留め。そこでようやく、魔女は手紙を持ってきていないことに気がついた。


「うーん、あの手紙、持ってこなくても良かったのかしら、不安になってきたわ……」


 魔女は魔石をひとつ、手の上に転がしながら猫にそう呟いた。

 魔石は赤く日に照らされて、美しく輝いている。


 そして列は徐々に、前に進んでいく。

 前を覗くと本が高く積み上げられている小屋が目前に、後ろを振り返れば気づくと長蛇の列ができていた。


「お名前を教えてください」


 ようやく出番がきて、背中に定規が差し込まれたように緊張する魔女。


 無数の赤い本に囲まれて、四角い眼鏡をかけたお下げの女性が一人ぽつりと本と魔女の顔を何度も品定めするように交互に見つめる。


「あっ、えっ……あと」


 喉に声が突っかかったようになり、言葉を出すのに失敗した魔女は自信を1度落ち着かせ。


「メアリー・ホーソン……です」


 そう、か細い声で自身の名前を伝えた。

 久々に人と話した魔女はうるさく鳴く心臓の音を疎ましく思いながら、何か自身を証明できるものを持ってくるべきだったのではと内心で後悔していた。


 そんな魔女を他所に受付の女性は、手元の赤い本をめくり、同時に紙の束を慣れた手つきで素早く滑らせる。


「メアリー、ホーソン……さんですね、はい、確認できました、こちら試験で必要になりますので、無くさないようにお願いします」

「あ、はい、ありがとうございます……?」


 魔女は女性から紙を受け取った、古くはあるがしっかりとした上質な紙だ。


「では、この先の広場の方へ」

「はい…」


 受付の女性に通され、魔女はついに学園の庭園に足を踏み入れた。

 庭園を進んで抜けたところに、人々が集まっている広場のようなところが見える。

 庭園に入ってから、人の数は明確に減っていた。


「その紙なんにゃ?」

「んー、人魚が描かれてるわね、かわいい」


 人魚の紋章。

 深海の未知への恐怖、人魚という神秘への礼賛。それらを見事に表している具合のいい絵だった。

 この絵を気に入った魔女は、この紋章の紙は持って帰っていい物なのだろうかと本気で思案し始める。


『受験生の皆様!配られた紙を見てください!きっと紋章が描かれているはずです!』


 空を飛びまわる数十匹のカササギが、そう人語を叫ぶ。

 どこかで案内役の誰かが、カササギを通して指示を出しているのは一目瞭然だった。


『ドラゴンの描かれた紋章を持っている方々は赤いローブを着た先生方に続いてください!』


 庭園を抜けると、人溜まりとそびえ立つ校舎にも圧倒されないような雄大な広場が現れた。

 カササギの声の主が、頼りのなさそうな木の台に乗って声を張り上げているのが見える。


『同じように!グリフォンの紋章が描かれた紙を持っている受験生は黒のローブの先生方に!ユニコーンは白色!マーメイドは青色の先生方の指示に従ってください!』


 人々の視線が、手元の紙に向けられる。

 それは黒猫と魔女も例外ではなく、一種のパフォーマンスのように一斉に皆が下を向いている。


「マーメイド、青色ね」

「あそこにいるにゃ」


 黒猫が示す方向には、青い衣装を身にまとった人物達が手を振っていた。

 その元には、子供たちが集まりだしている。

 ふと気がつけば、辺りに居るのは若者ばかり。


 魔女は深く息を吸ってから、小さく吐いて。


「よし、行きましょう」


 青いローブの人物達の元へと、歩を進めた。

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