デビュー戦『6番、フェリカ』
フェリカ・オウル。
ジュニア杯、決勝戦三位の戦績を収めた知る人ぞ知る手堅い実力を持つ『掻っ攫い』の戦法を主軸としてプレイする選手。
『掻っ攫い』は、ポイントを持つゴーレムを最初に多く仕留め1位をキープしたまま他の選手との衝突を避けタイムアウトを狙う戦法。
最初に1位をキープする必要があり、さらに数多の選手に狙われながらその全てをいなし逃げ切ることが目標という本人の才能や技術に大きく依存したプレイスタイルであるためマイナーな戦法である。
彼女のプレイスタイルに大きく影響を与えたのは、魔女競技における『掻っ攫い』の天才、『謳華の奇術師』と呼ばれた魔女だ。
彼女の試合に見惚れ、憧れ、フェリカは今同じ舞台に足を踏み入れた。
(アイアミ・ヴァルテリナ選手、あの王者の娘……。)
幸運か不幸か、フェリカのデビュー戦は大きく盛り上がっている。
魔女競技の最高峰、頂上戦で三連続王者に輝いたアイリウス・ヴァルテリナ。その娘が、正真正銘初めての表舞台での魔女競技への参加。
席もデビュー戦には珍しい人混みで、特にアイアミ選手の観戦席は満杯。観客、視聴者、あらゆる場所から新たな伝説を見届けようと、皆、晶盤に釘付けだった。
(大丈夫よ、フェリカ。これはチャンス。私が勝って、最高のスタートダッシュを決めるから。)
カササギに連れられ、指定された位置に到着したフェリカは辺りを見渡しながらどう動くか思考しながら体を軽くほぐす。
徐々に現実味を帯びてきたデビュー戦の緊張に、心臓が締め付けられる感覚に襲われながらうるさく高鳴っている。
(ふぅ、落ち着け私、落ち着けぇ)
胸をそっと撫で、落ち着くように自分に言い聞かせる。
『各選手、位置に着きました。まもなく、試合の大鐘が鳴らされます』
司会者の声が、いよいよ始まる魔女競技の知らせを届ける。
それぞれの参加者たちも、集中力を高め静かに大鐘の合図を待った。
観客たちも静まり選手たちを見つめ、家や路上、仕事場もこのデビュー戦を見届ける者たちには自然と沈黙が訪れる。
そして──────その静寂を切り裂くように大鐘が舞台に鳴り響いた。