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12話『アイアミ』

「ただいま」


 アイアミは、暗い玄関に呟いた。誰にも届かないであろうその声は、誰に向けた訳でもない言葉だった。

 そうして帽子をラックに掛けようとしたその時、いつもはシンと静まり返った部屋からやけに明るい声が帰ってきた。


「おう!おかえり!」

「お母さん……」


 返ってきた声の主は、アイアミが思ってもみなかった人物だった。

 驚きを押し殺して、アイアミは平静を装いながらローブをラックに掛ける。


「帰ってたんだ」

「娘の受験だろ?ちゃんとそばに居てやらないとってな」

「受験3日前だけど、ありがとう」


 バツの悪そうな顔で乾いた笑いが止まらない母親に、呆れたアイアミは嘆息をひとつした。


「それで?手応えはどうだった?」

「まあ、普通に、合格だと思う」

「お、自信ありげだな、よかったよかった!」


 淡々と答えるアイアミの態度に、母親は大きく笑いながら頭をわしゃわしゃと撫でる。


「めぼしい子はいたか?」


 撫でる手を止めて、獰猛な笑みで問いかける。

 頭の上に乗せられた手を摘んで下ろさせながら、アイアミは問い返す。


「……それは、ライバルとかっていう話?」

「そうそう!いつも言ってるだろ?強くなるには自分より強いか同等のライバルが必要だってな」


 聞きなれた母親の言葉に、頷きつつアイアミは唇に指を添えながら考える。

 受験で出会った少女の名前がほんの一瞬だけ浮かんだが、ライバルという言葉がメアリーの名前を沈ませる。


「それで、どうだった?」

「……そうね」


 実技試験の際、メアリーに付き合ったおかげで様々な魔女たちの魔法を観察することが出来たアイアミはその記憶の中から目を引いたものをピックアップしていくが。しかしどれも、ピンとこず。


「特には」


 しばらく考え込んで、そう結論づけた。

 傲りでも、慢心でもなく、本当にアイアミは自身の実力に並ぶ魔女をあの試験で見つけることが出来なかったのだ。


「そりゃ残念だ……けど、あれだ、先輩とかに強い奴がいるはずだしな!なんとかなるさ」


 親指を立てながら歯を見せて笑う母親に、微笑みを零しながらアイアミは1度だけ縦に頷いた。


「……ところで、今回はいつまで居れそうなの」

「1週間まるまる休みを取ってきたぜ」

「じゃあ、久しぶりに手合わせをお願い」


 母親をまっすぐと見つめながら凶猛な瞳で、まるで欲しいおもちゃをねだるように甘える。

 それを受けて母親は嬉しそうに、我が子を歓迎した。


「よしきた、まかせな」


 それを聞いてアイアミは、階段を上へと駆けていく。

 母親はそんな娘を慌てて、少し困惑した声色で呼び止める。


「庭だろ?家の中で暴れる気か?」

「ちょっとまってて、着替えてくるから、これお気に入りの服なの」

「わかったわかった、じゃあ庭で待ってるよ」



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