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10話『魔女の森』

 あと7日間待たなければならないと頭ではわかっていても、興奮の収まらないメアリーはその日は一睡もすることなく布団の中で朝日を迎えた。


「ふわぁあ、おはよう……」

「おはようにゃ」


 メアリーも黒猫も、お互いにあくびをしながら挨拶を交わす。

 外では鳥がさえずり、太陽が空を青く染めあげている。


「眠たい……」

「夜更かしでもしたのかにゃ?」


 いつもは朝食を用意するはずのメアリーは、今日は椅子に腰かけるとそのまま机に突っ伏して唸っている。

 黒猫は伸びをして、メアリーのそばに寄った。


「眠れなくて、街で買った本を読んでいたの」

「ちゃんと睡眠は取らないとダメにゃよー、じゃないと梟みたいに昼夜逆転生活になるにゃ」

「私は、元々夜行性だ」


 黒猫とメアリーの会話に、天窓から降りたった梟が割って入る。

 黒猫と梟の言い合いが始まるさなかに、メアリーは起き上がってホットミルクでも飲もうかと床下の冷蔵室から牛乳瓶を取り出す。


 こうして、ほぼいつも通りの午前を過ごして太陽は真上へと昇っていく。


「……っ、いけない、眠っちゃうところだった」

「お昼寝してもいいと思うにゃよ」


 真昼間になり、机で本の続きを読んでいたメアリーはいつの間にか居眠りをしていたことに気づく。


 本によだれが着いていないか、メアリーは口元を拭いながら慌てて確認する。そしてそんな様子を、黒猫は顔を上げず耳だけを動かして見守っていた。


 そんな時に、家の扉がコンコンと叩かれた。


「はいはーい」


 返事をしながら急いで扉を開けると、そこには耳が長い葉っぱの少し大きなウサギが立っていた。


「失礼、沼ウサギの者です」

「あら、こんにちは、いつも美味しいお魚を届けてくれてありがとうね」


 バスケットに詰まった魚を受け取り、メアリーは微笑む。


「いえいえ、こちらこそお世話になっております」


 ウサギも微笑み返して、鼻をヒクヒクさせている。

 メアリーは乾いた笑いを零しながら、少し肩を落とした。

 というのも誰かが手土産を持ってメアリーの家を訪ねに来るのは、何か困ったことが森で起きた時だけなのだ。


「それで、今回はどうしたの?」

「魔女様、いつも通り池で釣りをしていたのですが、どうにも水底が騒がしくて」


 こうして森の異変などをこの森に住まう存在たちは、事ある毎にメアリーに報告をしにやってくる。

 そして、その異変を解決してほしいとよく願われる。


 よくある事、むしろそれがメアリーの仕事であるかのように皆がメアリーを頼ってやってくる。

 時々、面倒くさくて断ろうかとさえ考えてしまう。


「わかった、見に行ってみるわね」


 とは言っても、自分を頼ってきてくれた者を放っておく訳にもいかないメアリーは体を伸ばしながら今回の件の調査を許諾した。


「感謝します」


 ウサギを待たせて急いで部屋に戻り、出かける支度を済ませる。

 ローブを纏い帽子をかぶると、やる気が次第に出てきたメアリーはウサギと共に騒がしい池に向かって歩き出す。


「おや、服を新調なされたのですか」

「ふふ、そうなの、やっぱり分かっちゃうかしら?」

「ええ、いつも変わりない服装でしたので」

「……」


 そんな余計な一言で、少しやる気がなくなったメアリーだった。

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