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9話『はじまり』

 魔女競技。

 魔女たちが熱中する、その認知度や人気度において最大規模の一大スポーツである。魔女であるならば知らない人はまず居ない。


 幼き頃にこの競技に恋い焦がれ選手たちを応援したり、学生となりそのスポーツの世界へ身を投じたり、大人となってもスポーツ観戦を休日の楽しみにする者も多い。


 ルールは至ってシンプルなものだ。

 ステージに放たれた、魔物と呼称される専門の技術者が作ったゴーレムを駆除すると、それに応じてゴーレムの中に込められていた魔力が競技専用の腕輪や首輪に吸収される、その集められた魔力の量を競うというもの。


 そして、相手選手の首輪もしくは腕輪を破壊すると相手選手の集めた魔力を奪うことも出来る。

 もちろん、壊された時点でその選手はゲームオーバーになってしまう。


 腕輪もしくは首輪は、吸収した魔力の量によって色が変わる。

 少ない順に青、緑、黄色、赤。

 現時点3位、黒色。

 現時点2位、銀色。

 現時点1位、金色。


 ゲームが終わるのは、ゲームの終了規定時間を迎えるか。もしくは選手の残り一人以外がゲームオーバーになった時。


 というのを、帰ってきたメアリーは意気揚々と梟に楽しげに話した。


「なるほど、主君が楽しめたようで何よりです」

「ちなみに、実は4回くらい説明してもらったわ……」

「難しいことはわからんにゃ」


 メアリーはローブと帽子を壁に掛けようとして、ひとつ思いついたように着直して梟の前へ出てローブをヒラヒラと揺らして見せた。


「ねぇ、どう?似合ってる?」

「はい、大変お美しいですよ」


 梟の答えに満足したように椅子に座り込んで、メアリーは嬉しそうにローブを見下ろす。

 嬉しいという感情が、目や口から滲み出て収まらないようだ。


「うへ、綺麗よねこの服、なんか色々、お礼にクッキーとか焼くべきかな?」


 メアリーはクッキー作りに、かなり自信を持っている。

 メアリーの作ったクッキーを食べた者は全員口を揃えて美味しいと良い、クッキーは必ずひとつも残らない。


 ちなみに、今までクッキーを食べた事のある者は梟と黒猫とメアリー自身のみである。


「作るべきにゃね、一応失敗してもいいように、多めに作るのにゃ」

「猫さんが食べたいだけね」

「ですな」


 基本、猫というのは私利私欲で動く生き物である。特にこの黒猫は、それが食欲の方面で顕著に現れる。


「そそんなことないにゃん!」

「まあ、多く焼くぶんには問題ないし、今日着いてきてくれたお礼に作ってあげる」

「いぇーいにゃ」


 立ち上がったメアリーを、梟が翼で方をチョンチョンっと叩く。

 不思議そうにメアリーは振り返ると、梟は胸を張って言い放った。


「主君、私は家守をしておりました」

「うん、もちろん、梟の分も作るよー」


 壁に帽子とローブを掛け直して、メアリーは再び椅子に腰かけて机に頬杖をついた。

 クルクルと青い宝石の周りを小さな赤い宝石が回る、そんな雑貨を眺めながらメアリーはため息を零した。


「はあぁ、1週間後か……合格したかな、なんだか不安」

「1週間、ゆっくり待ちましょう」

「そうね、そうだ、とりあえずお茶をいれるわね」


 いつにも増して上機嫌なメアリーを見て、梟はひとり和んでいた。


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