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【童話】ケリのキータ

作者: 吉良 純

とある平原にキータという名の一羽のケリが飛来しました。キータは他の成鳥より一回り小さなケリでした。でも勇猛果敢な性格で声もケリ一倍大きく、自分よりも体が大きく強いトンビにさえ立ち向かうほどでした。



そんなキータでしたが、何せ体が小さいものですから今までメス鳥からモテた事が一度もありませんでした。キータは毎日毎日大きな声で求愛行動を取りました。



すると一羽の小さなメスのケリがキータの声に惹かれたのか、彼の周りをうろつくようになりました。キータはそのメス鳥を懸命に何度も何度も口説きました。そしてついにメス鳥のキリカをお嫁さんに迎える事ができたのです。




キータはキリカの為に、より住み良い平原を探し、そこに引っ越しました。その土地は他の鳥達も縄張りを主張していましたが広大で人間が立ち入らない魅力的な平原でした。



キータ夫婦も広くはないですが縄張りを主張する事が出来るようになりました。そこで愛を育み、やがて一羽だけでしたが雛が産まれました。キータはそのオスの雛鳥をキュウと名付けました。




キュウが産まれてからキータは縄張りを拡げようと他の鳥達に戦いを挑むようになりました。親の強さと言いましょうか、傷つきながらもキータは連戦連勝でした。愛息のキュウに強い父の姿を見せたかったのです。反対に縄張りに侵入してきた鳥には、それが例えトンビだろうが鷹だろうが夫婦力を合わせて、例の大きなキーキー声を発しながら追い払ったのでした。



ところが縄張りを拡げ過ぎたのが災いしてしまいました。



キータが家族の為にごちそうを探しに外に出た隙を突かれ、大きなカラスが縄張りに侵入してきました。そして母鳥のキリカの抵抗も空しく息子のキュウをさらわれてしまったのです。



キリカの鳴き声に異変を察したキータが急いで巣に戻って来ましたが後の祭りでした。



キータはキリカに何度も謝り自分を責め続けました。キリカはキータを責めずただ鳴き続けたのでした…




それから数日経って、悲しみに暮れるキリカの元に一羽の大きなオスのケリがやって来ました。息子をさらわれた事をキリカが話すとオスのケリは、“強くて周りの鳥から怖れられている俺と一緒になれば、二度とそんな悲しい思いをする事はないよ”と自分についてくるよう促しました。



そしてキリカは、キータから離れ大きなオスのケリについて行きました。




一羽になったキータは心も体もボロボロでした。今まで戦いを挑んだ他の鳥達に今度は戦いを挑まれ、それに(あらが)える力は彼にはもう残っていませんでした。




キータは明るい家庭を夢見て引っ越して来た平原を離れ、当てもなくフラフラ飛んでいました。



そして草っ原に一羽の小鳥のほとんど骨と化した死骸があるのを空中から見つけました。



キータは目を見開き、地に降りその死骸に近寄りました。それは愛息のキュウの(むくろ)だったのです。



変わり果てたキュウの体を抱きながらキータは涙を流しケリ一倍大声で鳴き続けました。


“ごめんな、父ちゃんのせいでお前をこんな目に遭わせてしまって、弱い父ちゃんを許してくれ”



するとキータの心の中にキュウの声が聞こえてきたのです。


“お父さん謝らないで、ボクお父さんとお母さんの子供に産まれて来て幸せだったよ。だからお父さん、元気になって。お母さんの事、恨まないでね”と。



キータはキュウの骸をギュッと抱いて首を横に振りました。


“いや、父ちゃんはお前の所へ行くよ。これからはずっと一緒だよ”



キータの顔にもう悲しみはなく希望に満ち溢れていました。そして彼はキュウの骸を抱いて太陽に向かって飛んで行きました。



その後キータの姿を見た者はありませんでした。






キリカの方はあれからあのオス鳥と一緒になり一羽のオスの雛を産みました。キョンと名付けられた雛は小柄ながらもスクスク育ちました。



ある日好奇心旺盛なキョンは親の目を盗み、縄張りの外に出てしまいました。



すると一羽の大きなカラスが猛スピードでキョンに向かってきました。それはかつて、キュウをさらったカラスでした。



カラスに気づいたキリカが慌ててキュウを助けに向かいましたが手遅れでした。



カラスがキョンをさらおうとしたその時、“キキキー!!” “ピピー”と、それはそれは大きな二羽の鳥の声がカラスに向かうように響き渡りました。驚いたカラスは慌てて逃げ出しました。



キリカにも二羽の声がハッキリ聞こえました。それは間違いなくキータとキュウの声だったのです。



キリカは姿なくしてもキョンを救ってくれたキータとキュウに感謝し涙を流し鳴き続けたのでした。




その後彼女はオス鳥に別れを告げ、キョンが立派な成鳥になったのを見届けた後、安らかに息を引き取りました。






そして今、キョンは元気に空を駆け回っています。他のケリよりも一回り小さな体ですがケリ一倍大きな声で、かつてのキータのようです。



カラスに襲われたあの時、自分を救ってくれた二羽の親子鳥の姿がキョンには見えていたのです。キョンはいつか自分もキータのような勇敢なケリになると心に決めています。



そのキョンの元気な姿を天国からキータ達三羽の親子が暖かく見守り続けている事でしょう。



~おわり~

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