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cherry blossom

作者: 賀名さりぃ






私には、この桜の季節に大切な思い出と秘密がある。

それを知っているのは…。




 *




「入学おめでとう」

6年生のお兄さん、お姉さん達が声をかけてくれた。


本当に小さな頃だから、他のことは皆あやふやになってしまったけれど、あの日の事はきっと一生忘れない。





入学式の日。その日は授業もなく、すぐに帰ることになった。私たちは桜の咲いていない道を歩く。

その年は雨が多くて、入学式の前にほとんど散ってしまっていた。

だから、私の入学式の写真には桜は写っていない。

それは、少し淋しいことだけど、そのお陰で、私たちは桜からの贈り物を別の形でもらうことができた。



環境が変わって疲れたせいか、その日は普段以上に早く眠ってしまった。

けれど、夜中、何かを叩く音に目を覚ました私は窓辺に近寄った。

そこには、もう散ってしまったはずの桜の枝が引っ掛かっていて、葉には何かが書かれているようだった。


「しょうたいじょう

おわびにすてきなものをごらんにいれます」



よく見ると、そこにはたったそれだけがかいてある。

場所も、何も書かれていない上に、誰からの物かもわからないにもかかわらず、当時の私は迷う事無く家をでて学校へ向かった。





 


「みーちゃん、みんなここにいるの?」


「わかんない。さくらのはっぱみてきたんだもん」


「あたしもだよ」




友達との会話も、覚えている。


それほどに、その後のことは印象的だった。






入学式にいた子達がほとんど集まった頃、突然、街灯が切れ、出ていたはずの月も隠れて真っ暗闇になった。


でもそれは本当に短い間。




次の瞬間には、月にライトアップされた満開の桜が私たちの目の前に広がっていた。




一度散った桜がまた満開になるなんてありえない。

今ならそう思う。

けれど、そのころの私たちは、それがそんなにおかしいことだとは思わなくて、ただただ、綺麗さに見とれていた。


「すっげぇきれえ」


どこからかつぶやきが聞こえた。






しばらくすると、再び月は隠れ、桜の花もそれが戻る頃には無くなってしまっていた。




私も友達もぼうっとしていたけれど、しばらくして手の中にある葉っぱに書かれた文字が変わっていることに気づいた。




「おはなみはおしまい。


おやすみなさい、よいゆめを。」




いつの間に書きかえられていたのか…そんなことはわからないけれど、それをみると何故だか急に眠くなって来て、




「帰ろうか…」




と、誰からともなく言い始めた。





 


次の日、学校に行くとクラス中その話で持ちきりだった。


でも、先生や、親には言わない。自分たちの秘密にする。


と決めて自分たちだけの場所でしか話さない。




たぶん、あの綺麗さを、他の人には教えたくなかったんだと思う。






大切な大切な思い出になった、あの日のことも。

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