519話 食の祭典 1日目 20
拓郎視点です
「いらっしゃいませ」
男達を見て、美沙がカウンター席に案内しつつ
注文を聞きに入るところだったが
男達はそこで名刺を出してきて、わしに用事があると言うことだった
「はじめまして、酒屋を営んでいるものです」
男の一人が丁寧に名刺をわしに渡してきたので
わしも受け取りつつ、お辞儀をしながら応対をはじめた
「はじめまして 佐々木拓郎と申します
居酒屋はまだ初心者でまだまだ未熟なのですが
こちらの世界ではなく…異世界の人間です」
「はい 幸正様の映像配信等を拝聴しておりましたので
ここではない世界のこともなんとなくではありますが
理解はしております」
「そうですか 今日は…酒屋を営んでいらっしゃると言うことだと
ビールやウイスキー、ワインの試飲でしょうか?」
「はい そうです 私どもに皇室からも通達が入りまして
ワイン…葡萄酒でしょうか…研究をということで
研究を始めようにも味を知らなければなりませんし
葡萄酒だけではなく…ビールは確か麦酒でしたか?」
「そうですね ビールとウイスキーは麦から作られております
ただし、製造方法が違います
わしは…酒屋でないので詳しいことはわかりかねないのですが
調べることは可能です」
「なるほど 向こうの世界だと調べ物は簡単に出来るのですね?」
「はい そうですね 日本側の地球は全世界が
繋がっているテレビや電話というかたちのものがありますので」
「うーむ よくわかりませんが…凄い世界です
とりあえず、お酒の方を色々…お願いします」
酒屋の男はいまいちわからないという顔をしてから
話をお酒の方に切り替えたので…わしは一通りの酒類を用意していった
「まずは…ワインの方から…こちら赤ワインと白ワインです」
「赤ワインと白ワイン…確か製造が異なると宣伝番組でも
説明されていましたね?」
「はい 皮をむいてから搾る方法と皮ごと搾る方法です
熟成は室内温度が10度前後で…なおかつ温度変化がない場所が適切です」
「この辺は月宮酒の熟成酒と同様というところか…」
男がつぶやきながら納得した表情をしてから
ワインを口にする
「赤ワインは渋いのですね それに引き替え白ワインは酸味がありますね」
「はい 赤ワインは皮や種もそのままで搾ったもので
白ワインは皮や種を取り除いてから搾ったものとなっています」
「なるほど ありがとうございます
それでサンプル品として購入は可能なのでしょうか?」
「はい 十分 数は用意しておりますので…お売りすることは可能です
こちらのワインは安物ですので…質もそれほどいいというわけではありません
10年 20年 それ以上 熟成したものは高額になりますので
わしの店には申し訳ございませんが…取り扱っておりません」
「いえいえ お気になさらずに…サンプルとして研究に使えるものであれば
十分ですので」
「そう言って頂けると…こちらとしても助かります
さて、次に…こちらがビールとなります
日本のビールは本場のものとは異なりキンキンに冷えたものとなっております」
「と言いますと?」
男が首をかしげながら聞き返してくる
「はい ビールの本場は外国なのですが…そちらでは
ビールは常温で飲む習慣になっているみたいです」
「なるほど 日本の場合は冷やしたものと言うことですか」
「一般的にビールは庶民が飲むもので安めのものが多いです」
「ふむ それではいただきます」
男達がビールを口に運んでいく
そして飲み始めると目を大きく見開いて一気に飲み干すほどだった
「「「「ん~…ぶはぁ」」」」
「冷たい上に炭酸の刺激がのどごしに来る」
「苦みもあります」
「泡は新鮮ですね 月宮酒にはないものでした」
男達が感想をつぶやきながらビールのコップを見つめている
わしは問いかけてみることにした
「いかがでしたか?」
「これはこれで…うまいというか癖になる」
男がわしの問いかけに答える
「ビールもサンプルとして…ご購入でしょうか?」
「そうだな 買っておきたい 製造方法とか知りたいのだが
可能だろうか?」
男が遠慮しがちに問いかけてきたので
わしは笑顔を作りつつ答えた
「一般的な作り方でよろしければ…あとは独自に研究をお願いします」
「わかった 恩に着る」
わしはビールやワイン、ウイスキーなどの
製造方法をネットで検索して印刷作業をおこなうと
それを見つめていた酒屋の男達は目を丸くして驚いていた
「何もないところから印刷物が?」
「どういう仕組みだろうか」
「理解に苦しむ」
それぞれつぶやきながら、待ち時間にウイスキーも試飲していた
「ウイスキーはビールとは違って炭酸などがないのか」
「味わいが深い」
「これは高級嗜好向けになりそうか」
それぞれ感想を呟いていた
それを尻目に印刷を次々として行き
サンプルとして購入していただく酒類を用意して
男達の目の前に私ながら金額を伝える
「代金だが…ほんとにこれでいいのか?」
「はい 酒代だけになりますので」
「印刷物の代金はとらないのか?」
「わしは一般的な作り方を調べて印刷したまでですし
あとは…そちらで工夫して頂ければ
坊主…幸正くんだが…あの子もそういう目論見で
食の祭典を開催させたんだと思いますから」
「なるほど…こちらの世界でいろいろなものを普及させる目的ですか」
「そうなりますね」
「わかった 今回は…佐々木さんのご厚意にあずかります
私どものお酒が入り用になった時はなんなりと…」
「ありがとうございます 月宮酒も必要ですし
食の祭典は来年夏もありますので」
「来年夏…今回のより大規模になるのでしたか?」
「そうみたいですね」
「そのときは…私どものお酒も…大量におろさせて頂きます」
「ありがとうございます」
こういうやりとりを終えて
酒屋の男達との応対も終わると男達は会場を後にしたようだった
わしがお酒関係の話をしている間も
製麺会社の人が訪れていたり
ナポリタンの注文が殺到していたようだった




