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「シスター! ご本読んで!」
周囲に纏わりつくかわいい子供達に私は微笑んだ。
「お洗濯が終わったらね。談話室で待っていて」
「はーい」
言葉通り、談話室に駆けていく子供達を私は微笑ましい気持ちで見守っていた。
あの後、私は修道院に駆け込み修道女になった。
王女は馬鹿な弟との婚約を解消させて私を自分が嫁ぐ帝国に一緒に連れて行く気だったらしい。帝国ならば能力があれば平民の女性でも官吏になれる。唯一自分と同じ首席になれた私の能力を買っていて帝国の官吏にし、自分の手駒にしたかったようだが、私の意思を無視して、そんな事を望まれても迷惑以外の何物でもない。
私は王女のような天才ではないし元々勉強は好きではなかった。私が嫌いな勉強をして首席になっていたのは、暴言を吐く婚約者を悔しがらせるためだった。
暴言ばかり吐く阿保で馬鹿な婚約者とは、いずれ必ず婚約破棄か解消したかった。
女公爵の所業を公衆の面前で告白すれば、それが叶う。けれど、国王に言えば、なかった事にされるのは分かっていた。王家に近い血筋の公爵家をなくす訳にはいかないし、何より、女公爵は国王が真に愛する女。隠蔽するに決まっている。けれど、私が公衆の面前で言えばなかった事にはできない。
社交界で爪弾きになる公爵家の令嬢であり、そもそも正式な婚姻をしていない男女の間に生まれた娘だ。いくら私が王家の色彩と血を持っていようと、とても王太子妃や王妃だとは認められない。
私は王子との婚約を破談にできればよかったのだが、義父が私に便乗して王家を潰しにかかったのは予想外だった。それだけ義父は王家を憎んでいたのだろう。
対外的には私は幸せに見えただろう。
公爵令嬢として生まれ、王子の婚約者となり、富と権力を持つ幸せで恵まれた娘にしか見えなかっただろう。
確かに、私は恵まれていた。
けれど、幸せだと思った事はなかった。
貴族の義務として私を誕生させた形式上の母親である女公爵は私に無関心だった。
女公爵の夫、義父は、愛する女性の娘だからと気遣ってくれるだけで、父親としての愛情はくれなかった。
自分が望んでも得られない色彩を持ち、自分よりも優秀だからという理由だけで、婚約者は暴言を吐くだけで私を慮ってはくれなかった。
こんな境遇から抜け出したかった。
けれど、公爵令嬢として生きていた私は、それ以外の生き方を知らない。市井に下って生きるなどできないと思っていたのだが。
そんな私を変えてくれたのは、公爵令嬢であり王子の婚約者として慰問で訪れた修道院だ。
そこには、貧困のためや親に愛されないなど様々な理由で捨てられた孤児達がいた。
孤児達に懐かれたことで、私の心の空洞が埋まっていったのだ。
王子との婚約を破談にした後は修道女になるというのが私の目標になっていた。
それに、近い未来、この国が隣国の属国になるのなら、前王家の血とその特徴を持つ私の存在は邪魔になる。俗世から距離を置いたほうが命の安全も保たれるのだ。