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 今日という国内外の貴賓が集まる王立学園の卒業式。


 ここで告白してしまえば、いくら国王でもなかった事にはできない。


 私は持っていた鞄から、ある物を取り出した。


「ここにいる皆様に、告白します!」


 国王による王子の婚約解消と王太子の指名で、この場にいる貴賓の注目が集まっていた。


 王子の婚約者ではなくなった公爵令嬢が何を言い出すのかと、皆、興味津々の様子だ。


「私は女公爵の娘ではありません!」


 ざわつく周囲に負けないように、私は、さらに声を張り上げた。


「今は亡き王弟殿下と女公爵の妹の娘なのです!」


 女公爵、この国で唯一の貴族の女当主、私の()()()()母親。


 その女公爵に惚れた私の父親(王弟)が自分に甘い前国王(父親)に頼み込んで結婚したのだ。


 好きな男と結婚間近だった女公爵、当時は公爵令嬢だった彼女は、それは泣いて嫌がったという。


 けれど、結局、二つ王家に条件を出して王弟と結婚した。


 その条件の一つが、自分が女公爵になる事だ。


 今まで、この国に女王がいなかったように、貴族家の女当主もいなかった。


 後継者が女性しかいない場合、婿が貴族家の当主、公爵や伯爵となっていたのだ。


 その慣例を破り、私の形式上の母親は、この国初の女性の貴族家の当主となった。


「何を言っているの⁉」


 女公爵が叫んだ。


 私に無関心な女公爵は本当は私の卒業式など参加したくなかったのだろうが、国王が参加するように王命を下したのだ。


 国王としては王子の婚約解消と王太子の指名という重大発表を私の母であり公爵家の当主である彼女に聞かせるためだったのだろう。まさか、私がこんな告白をするとは思いもしなかったに違いない。


「これは女公爵の妹の日記です。事の全てが書いてあります」


 一見本に見える装丁の日記帳を私は掲げた。


「王命で無理矢理結ばされた婚姻でも条件付きで承諾したというのに、あなたは王弟と体を重ねたくなかった。だから、王弟に媚薬を飲ませ、病弱で寝込んでいた妹を襲わせた。王家と公爵家の血を引く子供を産ませるために。九ヶ月後、私が生まれましたが、病弱だったあなたの妹、私の生母は、そのせいで亡くなりました」


 女公爵の血も涙もない所業に、この場にいる大半の人間が女公爵に冷たい視線を向けた。


「王弟は好きに扱っていいという取り決めを交わしたし、妹だって病弱なのをいい事に貴族令嬢としての責務を果たさなかった。私の代わりに子を産む事くらいしてくれてもいいじゃない」


「自分が女公爵になる事」


「王弟を好きに扱っていい」


 その二つが女公爵が王弟と結婚するための条件だった。それらを呑まなければ絶対に王弟とは結婚しない。自害すると脅したのだ。


 前国王は前王妃、最愛の妻に似た息子(王弟)を溺愛していた。美しく有能な息子に愛されているのだ。今は嫌がっていても、いずれ女公爵も息子を好きになると思っていたようだ。


 けれど、女公爵は契約をいい事に本当に王弟を好きに扱ったのだ。媚薬を飲ませて病弱な妹を襲わせて孕ませて、無事、子が生まれた後は用済みだからと王弟を公爵家の地下牢に閉じ込め水も食料も与えず衰弱死させた。無論、表向きは病死という事にしているが。


「彼女の弱い体では出産に耐えられないと分かっていたのに? いえ、その前に、自分を誰よりも敬愛していた妹の尊厳を踏みにじっても何とも思わなかったのですね」


 女公爵に冷たい視線を向け、そう言ったのは、彼女の現在の夫、公爵家の家令で弟の()()()()父親だ。


 王弟が彼女を見初めなければ、公爵家の親戚の子爵家の三男だった彼と結婚するはずだった。王弟が亡くなると喪が明けるのも待たずに、女公爵は彼と再婚し、私の弟(形式上だけど)が生まれた。


「あ、あなた」


 今まで夫から冷たい視線を向けられた事がない女公爵は戸惑った様子だ。


 女公爵は夫と相愛だと思い込んでいたが、真実は違う。


 彼は女公爵の妹、私の生母を愛していたのだ。


 その彼女は姉を敬愛していた。姉に男をけしかけられ孕まされてもだ。


 女公爵の妹が最期まで姉を気遣ったから彼は女公爵と結婚したのだ。


 愛する女を死なせた相手でも、彼女が最期まで気遣った相手だから夫として献身してきた。女公爵の所業を公表しなかった。


 だから、私に事の全てが書いてある女公爵の妹の日記を託したのだ。


「これを公表するもしないも、貴女(あなた)の自由だ」と言われたが。


 私に無関心な形式上の母(女公爵)は私に何もしなかった。


 愛する女の娘だからと、それなりに気遣ってくれる彼がいなければ私は生きていけなかった。


 だから、その恩と自由になるために、そして、恨みを晴らすために、こうして公表している。


「いくら彼女に、あなたの事を頼まれても、彼女の尊厳を踏みにじり死なせた(あなた)を抱けるはずがない。あなたが産んだ息子の父親は私ではなく、王弟同様、あなたに恋していた国王陛下ですよ」


 それも昨日知った。


 卒業パーティーで出自を公表するつもりだと言った私に、義父は、ならば自分も自分の息子という事になっている私の弟の出自を公表すると。


 私達の告白(告発にもなるだろうか?)は、公爵家だけでなく王家を滅亡させるだろう。


 私もだが義父も王家を恨んでいるのだ。私は私をこんな境遇に追い込んだ原因として。義父は愛する女の尊厳を踏みにじり死なせた遠因として。


「何を言っている⁉」


「何を言っているの⁉」


 国王と女公爵が同時に同義の言葉を叫んだ。


「眠らせたあなたを国王陛下に抱かせた。あなたが妹にした事に比べれば何倍も優しいですよね」


 私に言わせれば、どっちもどっちだ。


 私も弟も親達の身勝手の結果、この世に誕生させられたのだから。


「王子の母親を妾妃にしたのは、女公爵(この女)に似ていたからでしょう。前国王が、この女と王弟との結婚を決めなくても、あなたは公爵家を継ぐこの女を妾妃にできなかったから」


 もう女公爵に対して取り繕う気がないのか、義父は女公爵を「この女」呼ばわりだ。





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