3
王立学園卒業式の後のパーティーでの事。
「王子と公爵令嬢の婚約は解消! 王子は一代限りの男爵! 公爵令息を王太子にする!」
国王の宣言に、奴は愕然とした顔になった。
王家に近い血統の公爵令息であるせいか(それだけではないと私は知っているが)弟も私や王女と同じ王家特有の銅色の髪と瞳だ。さらには、私と王女同様、常に学年首席。しかも、自分が有能なせいか、あからさまに他人を見下している王女と違い人当たりがよかった。
無能な王子ではなく有能な公爵令息を王太子にしたいと誰もが考えるのは当然だ。
「なぜですか⁉ 父上! なぜ、私が男爵で、公爵令息が王太子になるのですか⁉」
食ってかかる息子に、国王は醒めた目を向けた。
「お前に王太子ひいては国王としての資質がなく、公爵令息に王太子ひいては国王として優れた資質があるからだ」
確かに、弟は何をやらせても奴よりも優秀さを示しているが、国王が弟を王太子にしたいのは個人的な理由が大半だと私は知っている。
「学業が振るわなくても政務をうまく熟せないのも構わない。優秀な人材を周囲に置けばいいだけだからな。だが、陰で婚約者を虐げているのは看過できない」
「私は、そんな事はしてません!」
「何を言っても無駄だ。お前と公爵令嬢は常に監視されている。王家の影に、侍女や侍従に、生徒や教師に。次期国王と王妃に相応しいかどうか審査していたのだ。お前が『二人きり』だと思い公爵令嬢に暴言を吐いているのも知られている」
国王の言葉に奴は真っ青になった。
「愛がなくても一番信頼しなければならない伴侶となる婚約者に陰で暴言を吐く男など国王に相応しくない。将来、伴侶となる王妃相手でこれなら陰で臣民を虐げる可能性があるからな」
国王や王妃、施政者となる者にとって一番重要なのは、臣民を慈しむ心だ。
国王が言ったように、勉強ができなくても政務がうまく熟せなくても構わない。苦手な所は有能な人材を配置すればいいだけなのだから。
国民からの信頼を失えば、王家は、いや国家は終わりだ。
国民から信頼し愛される王になるためには、王もまた国民を信頼し愛さなければならない。
それができないなら、王の資格などないのだ。
帝王教育の初歩の初歩だのに、奴は、それを理解できなかった。
奴に国王としての資質はない。
だから、私は初対面で奴に見切りをつけた。決して、暴言を吐かれたからだけではない。
「こんな王子に付き合わせてすまなかった」
言葉だけだが、国王が私に謝罪した。
「いいえ、陛下」
あなたが私に謝罪する必要はない。これから、私は、あなたを地獄に突き落とすから。
「私への暴言を知って再三、婚約解消しようと言ってくださったのに、ずっと拒否してきたのは私ですから」
奴が驚いた顔で私を見た。
「ああ、別に、あなたを愛しているから婚約解消に同意しなかった訳ではありませんよ。あれだけ暴言を吐かれて好きでいられる妙な性癖は私にはありませんから」
そこはきっちり言っておく。どういう訳か、男性は自分がどれだけ横暴に振る舞っても妻や婚約者から愛想をつかされないという妙な自信があるようなので。
「だって、公衆の面前でぶちまけなければ、陛下になかった事にされたでしょうからね」
だからこそ、ずっと奴の暴言に耐えてきたのだ。