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花散里と出会うまで  作者: 堀戸 江西
51/81

〜51〜エースの武蔵とは

「いや、師匠」

ゴーグルを外して、師匠に顔を向けた。

「ん?」

「最後持ってくなんてありですか?」

「いや……ま、あの瞬間だけだろ」

俺は念の為に左右を見回して、冬香さんがいない事を確認してから言う。

「意外とまんざらでもなかったりして」

「中坊に懸想なんてしねえよ」

即答した師匠に、ガクッと首を横に倒した。オイシイと思った自分が、なんだか矮小な存在に感じる。少しだけ不貞腐れたように口を開いた。

冬香(とうか)さんも同じ年でしょ?何が違うんですか」

肩を(すく)めた師匠が鼻で笑う。

「ふっ、愚問だな。14の冬香を見たんなら分かるだろ」

上擦った唸りのような声を出しながら、思い出すように上を見た。

「う〜、背は低いですけど、外見年齢20歳前後の美女でした。あんな色気の塊のような人に迫られたら即落ちです」

うんうんと頷く師匠は、腕を組みながら俺に言った。

「今回は勉強になっただろ?」

「え?あ、はい。怨霊の中にさらに怨霊がいるとか、呪いが複合してるとか。いや〜、怖いですね」

軽く目を見開いた師匠。俺の顔をまじまじと見てから言う。

「それの複合体に潜ってる自覚ないのか?」

「え?」

「この案件より遥かに強力で複雑なものに潜ってるんだぞ」

はい?

なんの事ですか?

首を捻って考える。実感がまるでない。

「どのくらい強力なんですか?」

「ふっ、まだまだ道のりは遠そうだな」

遠くを見ながら言う師匠に、縋り付くようにして教えを乞う。

「見捨てず助けてください!」

はいはいと頷く師匠に安堵して体を離す。

ほっと胸を撫で下ろすと、視界の端にゴーグルの中の映像が飛び込んできた。

まだ動いているように見える。

若月さんが映っているようだが、動きはない。

そのゴーグルの向こうで、マイカが大きなあくびをしたので、俺の目はそっちに向けられた。ゴーグルの中ではない。実際に部屋の奥の方で丸くなっていた。

「そういえば、マイカが初めて出てきましたね」

「冬香が連れてきたからな」

そうだったのかと、金の猫を再び見る。

俺の目線に気がついたのか、マイカの顔がこっちを見た。しかしすぐに興味を失い、ゆったりと蹲ると瞳を閉じる。

「さて、いよいよ上級だな」

「上級……」

「シンクロ率が上がるから、油断するなよ。そのまま身を委ねていると、痛みがそのまま傷に変わるからな」

「え、怖っ!そんな事まで再現されるんですか?ヤダな……」

師匠に手渡されたゴーグルは、まだ何の映像も流れていない。装着を躊躇(ためら)っていると、師匠が強引に被せてきた。

「ま、これまで数々の怨霊に襲われてきただろうから、大丈夫だろ。今までも多少気を張っていたようだから、最大限意識して見るといい。上手くいけば力の使い方が身につくだろう」

「は、はい……」

外はすっかり暗くなっており、少し腹の虫が鳴っていたが、それを口に出すことすらできずに意識が移動していく。

「無自覚のエース、武蔵(むさし)の記憶だ」

師匠の言葉と同時にカードが分散して俺に向かう。ゴーグルに吸い込まれていくと同時に、意識ごと持って行かれた。まるで、カシェットの中に入ったみたいに。







***







〜エースの誕生〜



武蔵は村の寺に来た若い僧侶に取り憑いている、得体の知れないものが怖かった。それはどんどん僧侶と同化していき、やがて狡猾な敵になった。

武蔵はそいつが弱っている人から何かを奪っている事に気がつき、身近な人を守ろうと行動するようになる。親友の太維(だい)とも協力し、共に警戒していたが、ついに犠牲を出してしまう。

その事件がきっかけになり、親友と離れ離れになった武蔵は、1人孤独に得体の知れないそいつと攻防を続けるが、徐々に追い詰められていく。

ある日武蔵は、自分の聖域だと思っていた場所に、敵とも違う恐ろしいものを見つけてしまう。美しい少女の姿をして目の前に現れたそれは、聖域を武蔵から取り上げ、呪いを残していった。

その少女との再会は高校に入ってからだった。呪いを与えていった少女は自らも呪いに犯されていたが、武蔵に魂の輝きを教えて消える。

高校を卒業した武蔵。

ついに敵は親を人質に武蔵を誘き寄せる。

手も足も出せず、絶体絶命の危機に現れたのは、武蔵を呪った少女と見知らぬ男だった。敵が呆気に取られている間に、男が全てを解決してしまう。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「武蔵さんって、師匠が言ってたようにエースなんですよね?」

ゴーグルを外しながら、俺は師匠に質問した。

「そうだな」

「見え方が最初に近いです」

「ま、あいつはエースだし、かなり器用な奴だからな。抽出できる事を上手く制限したり、見せたいように視線を操作できると思っていい」

「そんな事まで出来るんですか?」

「エースの実力ってやつだ」

「なるほど……言われてみれば泣いたところなんて、普通は恥ずかしくて見られたくないですし。カットできるのに学習のために入れてくれたんですね」

う〜んと唸った俺は、首を傾げて師匠を見る。

「一部、よく分からないところがあったんですが、それは見せないようにしたって事でしょうか」

どうして冬香さんを見て、あんなに怖がっていたのだろう。呪ってあげるって言われたからかな?その恐怖心の再現度は鮮明だった。

敵だと思っていた僧侶の何百倍も怖かった。

「まあ、武蔵はどうでもいい変なプライドはない奴だし、学びになればと提供してくれてるだろうから、自分の間違いや失敗を隠したりはしてないはずだ。見えなかったのなら」

しばしの沈黙の後、ニヤッと笑う師匠。その顔を見て、ちょっとだけ嫌な予感がした。

「修行が足りないってことだな」

俺は”修行”の言葉にさらに引いた。

「お、怨霊とか青い手は見えていましたよ!い、今やってるこれも、修行の一環ですよね!」

あまりに焦って言ったせいか、師匠はそのまま声に出して笑う。笑われたのを悔しく思いながら、口を尖らせて問う。

「わ、わざと隠したって事じゃないんですか」

「ま、そうだろうな。映像に起こすには障りがあると思ったんだろう」

一体何が見えていたのだろう。気になるけど、知らない方がいい事ってきっとある。これはそういったジャンルのものだという気がした。

それを振り払うように、ブルっと首を左右に動かして師匠を見た。

「あの後、武蔵さんは友達の太維くんと再会できたんでしょうか」

話題を少しズラすように、思案顔を作って師匠を見た。

「確かここのシステム作ってたような気がするな。いや、呪具系だったか?ま、部門は曖昧だが、いると思うぞ」

そうなんだ!

「よかった。連絡取れなかったって事は、あのお坊さんが何かしてたんでしょうね」

「鋭いな。簡単に言うと電波妨害だ」

当たった!

ふふんと鼻を鳴らして得意げになる。そのままの顔で追加で質問した。

「俺も武蔵さんが見てた体を守っている殻ってやつ、見れるようになりますか?」

ああ、と言って師匠が回答する。

「あのあと武蔵にも言ったが、あいつが見ていたのは霊体とも言われているものだな。体を守る機能もあるが、霊体が本当に守りたいのは”魂”だ」

「魂……」

「オレはこの魂の輝きで、能力がどれほど高いのか見ている」

眉間に皺がよる。

「怨霊がそれを見ていて、寄ってくるって事ですか?」

その問いに肯定が返ってくる。

「ま、そんなとこだ。厳密には魂から漏れ出た光が霊体に輝きを与えている」

「能力が高いと輝きが強い?」

「まぁ、そうだな」

ハッとして、期待いっぱいに師匠を見た。

「俺は……」

「そうでもない」

即答。

「そうでもないってなんですか!」

「大きくないな。今はまだ」

「みんなそうですか?最初は小さくて、訓練したら大きくなる?」

「……」

答えてくれない師匠。なんだか冷や汗をかいてきた。

「俺、生きて先輩を助けられます?」

「……」

「そこだけは嘘でもいいから頷いてくださいよ!」

「あと1つだけ見たら、修行、しよっか」

拒否できない話の流れに、さらに冷や汗が額を流れる。

「思い出したくない事を思い出してしまった」

そう独り言を呟くと、師匠は俺から顔を背け、ゴーグルの中をじっと見ている。映像が終わるのを待っているようだが、あまりの形相に何も言えなかった。

どんな不快なものが写っていたらあんな顔になるのか。


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