〜50〜再び座学へ
〜呪い〜
白い手は彼女の身に宿る呪いの一種だった。
山奥で桜の精に遭遇した”未桜”はその直後から呪われてしまう。
男を寄せ付けつけ、相手の生気を奪うような呪いは、未桜の意図とは関係なく勝手に発動する。
二十歳の誕生日を祝ってくれた人まで白い手の犠牲になり、泣きながら歩いていた未桜は見知らぬ女とぶつかる。その女の連れは呪いを感知し、3時間だけ楽にしてくれると言う。
別れ際に金のカードを手渡された未桜。そこには店名と営業時間、担当者の名前のみが記載されていた。一瞬だけ見えた住所を探す彼女に、呪いの災難が降り注ぐ。
横浜の自宅で立て続けに男に襲われ、それでも何とか抵抗した未桜は、通りがかりの”鷲木 菟”に助けられる。
しかしその菟にも呪いの影響が出て、未桜は距離を取るために家を飛び出して大阪へ向かう。
大阪で沙と香奈の2人に出会い、はなちるさと関係者だと知った未桜は助けを求め、若月の指示で自宅へ向かう。
菟の無事を確認した未桜は、若月の提案に乗って引っ越す事を決める。
別れ際に解呪に成功したら付き合って欲しいと告白された未桜は、喜びを噛み締めながら返事をした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「じゅ」
俺の漏らした言葉に師匠が繰り返して聞いてくる。
「じゅってなんだ。呪?」
大きく首を左右に振った。
「純情で可愛かったんですね、未桜さん」
俺がそう言うと、師匠は苦笑いする。
「あんなに積極的だったのは、呪いのせいなんですか?」
ゴーグルを外しながら言う俺に、師匠は少し考えるようにして答える。
「アナリーズでのことか?ま、因果関係はあるが、呪いの影響とは言い難いな」
「呪いのせいで性格が徐々に変わっていったのかと思ったんですけど」
そう言うと、師匠は首を横に振る。
「あれは菟のせいでああなったんだ。本能の部分もあるだろうが、いずれにしろ呪いは関係ない。性格を変えていくのは、怨霊だからな」
俺は3つ目に見た、クイーンから抽出された話を思い出していた。
取り憑かれた母親が、徐々に壊れていくあの過程がまさに、怨霊の影響だったなと思い出す。でも、それなら未桜さんの心の葛藤みたいなアレは、呪いに振り回された脳の錯乱って事?
沙さんが使用した紙呪で、未桜さんはコーヒーを無意識のうちに購入していた。その時の説明では脳が整合性を保とうとするって言っていた。直接的な影響がないにしても、影響がゼロではないって事なんじゃないの?
う〜ん、難しいな。
「お、光……」
呼ばれて回想から戻る。師匠を見るとその手には【菟】と書かれたカード。
「見る?」
「見ます!」
元気に叫んだ俺は、素早くゴーグルを装着してする。
「時系列が同じとは限らないが、呪いや怨霊への対処が分かるかもな」
「あ、そっちですか」
「……2人の絡みもあるかもな」
「…………ちょっと、1人にしてもらえます?いでっ!」
こめかみあたりを弾かれて頭が揺れたが、気にせず始まりを待つ。
***
〜呪い・続き〜
滋賀で住み込みバイトをしている未桜は菟に連絡して、はなちるさとに行く日程を調整した。
業務連絡だけで会話が終わる菟に、少し寂しさを覚える未桜。
じわりと涙が浮かんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「し、師匠!」
勢いよくゴーグルを外した俺は師匠に訴えかける。
「今度は何だ」
「なんですかこれ!未桜さんの感情が流れ込んできて、めちゃくちゃ切ないんですけど」
きゅーんとせつない。
何言ってんだと思うだろうがこの表現が一番近い。
「ま、あれでも一応Qだからな」
「え、未桜さんってクイーンなんですか?得満先生と同じ?」
俺は師匠の頷きを確認して、ほうっと息を吐き出す。
「実は凄い人だったんですね」
「ま、それはともく、話、進んでるぞ」
「あわわ!」
急いでゴーグルを装着する。
意識は画像とリンクし、物語の続きへと潜って行く。
***
飲食店でワインの勉強をしながら、はなちるさとで修行をする未桜。菟は呪いを抑える術を礼に、未桜は魂を保護する術を若月に教わっていた。
付き合いだしたものの、修行と並行して2人の関係も変わらず、キスもできないまま夏が過ぎて冬になった。
クリスマスの仕事帰り、はなちるさとに呼び出された2人は、桜の精と再開する。
一時的に能力を抑えられた未桜は、菟と共に聖夜の街に消えていき……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「この続きは……あでっ」
ゴーグルを外しながら言う俺に、師匠がデコピンしながら呆れた表情を向ける。
「感想、そこか?もっと他にないのか」
う〜んと唸りながら答える。
「未桜さんの見る目が変わりました。良い方に」
「それは何より」
「ところで師匠」
俺は真面目な顔を作って師匠を見る。
「この胸の高鳴りは、ただの同調した影響でしょうか。いや、影響ですよね?鷲木さんを好きになってしまったなんて事、ないですよね!?」
「はあ?」
呆れたような表情の師匠が俺を見る。
「未桜さんの感情が流れてきて、好き、せつない、大切にしようって感情と、鷲木さんが交互に頭の中を回転しています」
へえ、と師匠は言って1つ頷く。
「誰の感情に影響されているのか分かってんなら、大丈夫だろ」
「どうせ好きになるなら未桜さんがよかったのに、鷲木さんが頭から離れません」
師匠はふぅん、と言いながら、俺の瞳を覗き込む。
「面白い影響のされかただな。ま、その扉を開けるも、開けないもお前しだいだ」
真剣に考え始めたが、ふと顔を上げて師匠を見た。
「この時、冬香さんが合流したことによって、師匠も能力の底上げがあったんですか?」
「……どうしてそう思ったんだ」
面白そうにこちらを見ていた顔が、急に真顔に戻る。
「最後に出て来た若月さんがレベルアップしてたじゃないですか。だから一緒のタイミングで何かあったのかなあと思って」
「へえ」
口角は上がっているのに笑っていない師匠の表情に、少し嫌な予感を覚える。
「あはは、気のせいかもですね」
繕ったような薄い笑いを乗せて頭を掻いた。
「あ、もう陽があんなに傾いてる!いや〜時間の経過って早いですね〜」
両手を腰に当て、窓に向かって空を見上げる。
何が不味かったのか分からないが、話題を変えるのが良いような気がした。しかし何も思いつかなくて、適当に言葉を繋いで誤魔化したが、沈黙が返って来てヒヤヒヤする。
「ふっ……」
笑ったのか、呆れたのか分からなかったが、背後から息と一緒に溢れた師匠の声。直後、頭にがしっと手が置かれ、髪をぐしゃぐしゃにされた。
「ま、今は勘弁してやるか。まだまだ見るべきものはあるしな。まだ中級だ。次は中級3」
ほっと安堵の息を吐いた。
訪れる夜が長くなる事を、この時はまだ知らない。
***
〜聖霊〜
幼少期から霊体が見える兄妹。箱根に住む中学生の美卯は、兄の雷太と神社清掃のボランティアをしていた。
ある日美卯は、神社の木に縛られて泣き続ける黒い霊体を発見する。
触れる事によって、霊体の名前と死の原因を見てしまった。翌日、兄を伴って神社に行くと、霊体は黒から白に変わっており、さらに声を失っていた。
その声を失った霊体は、雷太の同級生であった。なぜ死んだのか分からないまま、2人は自宅へ霊体を持ち帰り、雷太は静岡にいる大倭と将生に連絡をとった。2人は美卯達を心配して箱根にやってくる。
朧とも違う白い霊体は、美卯からエネルギーを吸って生きながらえ、解決方法もないまま季節が進む。美卯と雷太は、大倭と将生から大阪に行って若月に相談するよう言われた。
その頃、はなちるさとでは14歳の冬香が若月に迫っていた。礼の視線が痛く、たじろぐ若月。
その直後、美卯が訪ねてくる。
結界によって入れなかった美卯は、若月の誘導で大きな公園に移動し、精霊の存在を知る。
美卯と雷太は改めてはなちるさとに向かい、そこで覚醒したばかりの若月の能力を目の当たりにした。初めてカシェットの中に入るケースだった。
霊体と美卯はカシェットに変換され、礼と雷太はその中へ入る。
冬香と若月は店で待機して解呪を待った。
やがて戻ってきた3人。
美卯に結界術の才能があると見抜いた礼は、箱根にある神社に白い霊体を安置し、管理を雷太に任せた。
瓊樹高校に行ったら、冬香の友達になって欲しいと頼まれた美卯はそれを了承し、礼は美卯に……
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