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花散里と出会うまで  作者: 堀戸 江西
47/81

〜47〜礼の修行と思想と偏屈

「ま、その辺りは遊園地で教えてあげよう」

「遊園地?」

腰が引けている自覚はある。しかし体の反応なのでどうしようもない。

それにマカオでバンジーより楽しそう。

あ、でも待てよ。

まさか、セーフティー・バーなしのジェットコースターで修行だ、とか言わないよな。

(ひかる)、観覧車好き?」

ジェットコースターより安全そう!

「好きです!」

「よし!決まり」

師匠はそう言うとすぐに俺の腕を掴んで、ぐいっとひっぱった。

「うわ!」

よろけて師匠にぶつかった俺は尻餅をついた。ふと辺りを見回し、また景色が変わっていることに気がつく。

「ど、どうなってるんですか」

師匠を見上げて質問した。

「光、頭上に注意」

ん?頭上?

言われて上を見ると、何かの残像が小さく見え、額に小さな痛みが走った。

「つっ!」

何か刺さっているような気がして、額に手を伸ばす。

額に刺さっている細長い何かを抜いた俺は、それを目の前に持ってきて絶句した。

手に持った時、針のような気がしたが、そのまんま針だった。

縫い針がなぜか額に刺さっている。

これが目だったらと思うと悪寒が走った。

「な、なんでこんなものが」

「オレが落としたから」

「んな!なんてことするんですか!!なんの説明もなしに」

「いや、あんまり怖がるから、地味にしようかと」

師匠は頭を掻きながら、行けると思ったんだけどな、とぶつぶつ言っている。

キっと師匠を睨みつけた俺は、目の前に観覧車があることに気がついた。

「い、いつの間に」

「ん?さっき、よろけた間に、かな」

悪びれもせず言う師匠は、また俺の頭上を指して続けた。

「もう一本、針を出現させたから、気合いで弾きな」

俺は上を確認することなく、その場から飛び退いた。

飛び退いてから、さっきまでいた場所の少し上を確認したが、針のようなものはなかった。

まさか、と思い頭上を見ると、まさに針が落下中だった。

来るなーー!

心で叫んで目を閉じた。

「………………」

痛みがこない。

恐る恐る目を開いて見ると、そこに針はなかった。

「は、弾いた!?」

そう独りごちて、額に手を当てる。

「んん?」

針はそこにあった。痛みはなかったが、阻止は失敗に終わったようだ。

「光、不器用だな」

「気合いで弾くの意味が分からないんですって!」

「え?気合いでなんとかならないか?」

そう言いながら指を一振りする師匠。

するともう一本、空中に針が現れる。

「光、怨霊と対峙した時、怖いとか寒いとか思ったか?」

針を警戒しつつ、その時を思い出しながら答えた。

「あの山奥ですか?あれは怖かったです」

師匠は眉を寄せながら苦笑する。

「あれは騒いでただけで参考にならないな」

「あ、それじゃあ、絵の中で怨霊と向かい合った時なら」

「どんな感じだった」

「う〜ん、なんか、腹の辺りがモヤっとするような、ヒヤっとするような感じですかね」

そう言いながら、指で針をつかんでみようと手を伸ばす。

それを見た師匠が指を上にクイっと折る。俺の伸ばした指の分だけ針が逃げた。

手で掴むのはダメらしい。

「チューニング、チューニング」

「チューニングゥ〜〜」

フルートみたいに簡単にできるものではない。実体がないそれをどうやって合わせろと言うのか。

「見るためのチューニング。見えたら後は感覚に従う」

「か、感覚?」

「光はさ、腹だろ?」

それ、前にも言われたような……?

「腹の辺りがモヤッとする、ヒヤッとする。その感覚に注目してみな」

観覧車を見上げた師匠。

嫌な予感がした。

「じゃ、説明したところで実践と行こうか」

「いや、まだ質問……!んぎゃあぁああぁ!」

引き上げられるような感覚に、質問は絶叫に変わった。








笑顔の師匠が軽い口調で言う。

「この状態で手の中に力を発生させるのがゴールだな。さて、ここからは質問タイムだ。疑問難問なんでも聞いていいぞ」

「…………………………」

「どうした?」

「…………〜〜〜〜〜!」

「まあ最初の一周は無理かな」

「……は………………い……」

丸い観覧車の上で、微風に髪を靡かせながら爽やかに言う師匠を、俺は睨むことも出来ずにいた。

一文字発するだけで、ものすごい集中力を要した。

なぜなら俺の頭上には無数の針。

気を抜いたらこれが全部降ってくる。

死にはしないと師匠は言うけれど、恐怖以外の形容詞を思いつかない光景である。

俺は針山にはなりたくない。









「お帰りなさい。ちょうどいい時間ね」

床に吐き出された俺と華麗に着地した師匠。俺は床に横たわったまま、ぶつぶつと訴え続けていた。

「座学……座学で、もう少し座学でお願いします」

精神的疲弊がえげつない。立ち上がる元気すらなかった。

「午後からは座学ね」

冬香さんの声が神々しく響く。

「仕方ない」

残念そうな師匠の声は悪魔のようだ。

チリンと音がして顔だけを上に向ける。

カオリンが絵から小狐に戻る音のようだ。冬香さんがそっとカオリンを抱える。

「あぁ〜かわいい〜」

癒しだ。

目の保養だ。

でも、もう立てない。

「ダラダラしてないで、飯行くぞ」

悪魔の声が頭上から響く。

「朝あんなに食べたから空腹では……」

ない、と言いかけた瞬間、腹から盛大に空腹サインが鳴り響く。

「え、嘘〜」

力なく言った俺は、のそのそと体を起こす。

「力を使った証拠だな。さ、行くぞ」

師匠に引っ張り上げられて立つ。冬香さんはカオリンを抱えたままニコニコして俺たちを見ていた。

「冬香さんは行かないんですか?」

「ええ。今から人が来るので、その対応を。武蔵さんも戻ってきそうですし」

微笑みを残してキッチンの方へ消えて行った冬香さんを見送る。

「残念」

俺はそう言って師匠を見た。

師匠も残念そうに頷いている。








ホテルでビュッフェランチを堪能した俺は、帰り道に隣の巻毛を見上げながら質問する。

「師匠もあんな修行したんですか?」

「オレか?いや、必要ないからしてない。それ以前にあんな便利なものはなかったからな」

「どうやって見えるようになったんです?」

「生まれつきだ。周りがみんな見える奴なんだよ。逆に社会に馴染むための練習が必要だった」

社会に馴染むための練習って何するんだろ?

俺はビルの合間の空を見ながら考える。よく晴れた綺麗な青空が覗いていたが、それがさきほどの修行を想起させて目を逸らしてしまった。

「なんにしろ、師匠は生まれつき才能があったって事ですね」

褒めたつもりだった。しかし師匠からは冷たい声色が返ってくる。

「才能という言い方は、自分達を優位に見せようとする浅ましい心からだ。こんなものはただの体質。それを生かすも殺すも己次第。生かしきって、初めて才能とよんでいいんじゃないのか」

体質、ただの体質か。

才能と言われてもピンとこないし、体質と呼ばれる事に問題はない。でも、体質ならどうして俺は突然見えるようになったんだろう。もっと小さい頃から見えていても良さそうなのに。

そう思って質問しようとしたが、すっと近寄ってきた人影に驚いて言葉が引っ込んだ。

「ホント、あんたってカタイわねぇ」

声の方を見ると若月さんと、その背後にショートヘアの人が立っていた。

「連れて来たわよ。店に戻ったら治療してもらいましょう。翡翠(ひすい)、お願いね」

無言で頷いた人の髪は、陽があたると深い青色だった。両サイドの髪は長めだが、後頭部はすっきりとしていて、体のラインが細身で中性的な人だ。師匠や若月さんより頭1つ分低くて、俺と同じくらいか、もうちょっとだけ低いかな。

男か女か不明なのは、若月さんの横にいるからだろうか。

「治療って、誰か店に治療しなきゃいけない人が来るんですか?」

俺がそう質問すると、若月さんはこちらに指を向ける。

「あなたの霊体が損傷しているのよ。怨霊に何度も襲われたでしょう。その時にガツガツ喰われたのね」

お、俺の事だった。襲われた自覚はあるので、無言で頷いてそのまま頭を下げた。

「お世話になります」

翡翠さんは無言で頷いた。

「あら、素直ね。あのお母様の教育が良かったのかしら」

その呟きで、ようやく母のことを思い出す。そして若月さんの言葉に引っかかった。

「あの?」

首を傾げて若月さんを見る俺に、若月さんは頷いてから答えてくれる。

「ええ、お母様に会ってきたわ。上品で綺麗な方ね」

「え!」

すっかり忘れていたことに自分でも驚いた。それどころじゃなかったとはいえ、すっかり失念していたのだ。

「……元気でしたか?どんな様子か聞いてもいいですか」

「もちろんよ」

金の髪をサラリと揺らして、若月さんは俺の実家訪問の様子を聞かせてくれた。


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