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花散里と出会うまで  作者: 堀戸 江西
30/81

〜30〜京都デート

俺はフォカッチャを手に取りながら、先輩と降り立った京都駅を思い出す。




***




「着いた!」

電車から飛び降りるようにしてホームに着地した先輩。京都の空気を吸い込みたいのか深呼吸をしている。素直でかわいいな。

ホームから階段を登って移動する。登り切ったところで左右を見回し、先輩に声をかける。

清水寺(きよみずでら)に行くにはどっちの出口でしょうか?」

先輩とあれこれ迷いながら改札を出るのも楽しかった。

バス停に進み、またちょっと迷う。

「清水寺行き、何個かありますね」

「う〜ん、経路が違うだけでどれでも着くんだろうね。他に目的もないから、一番早く来たものにしよ」

美里先輩の意見に賛成し、今到着したばかりのバスに乗り込んだ。

「先輩が大阪駅であの人に聞いてくれたから、思ってたよりずっと順調ですね」

「うん。もっと色々迷うかと思ったけど、よかったね」

景色を楽しみながら言う美里先輩。俺はその横顔を眺めていた。

なんて幸せな時間なんだと、この瞬間を噛み締めながら。





***





「いや、全然記憶ありませんけど。本当に同じホームにいたんですか?」

こんな目立つ人が近くにいたら気がつきそうなものだけど。

「見つからないようにしてたし、光は先輩とやらに夢中だったからじゃないのか」

言われてみれば、先輩と行き先掲示板しか記憶がない。

「ま、見知らぬ土地なんてそんなもんだろ」

俺は気恥ずかしく思いながら口を尖らせて言う。

「その見知らぬ土地でもたついていたので、師匠が俺たちを見失うはずないと思うんですけど」





***





「あの、すみませんでした。おかげで助かりました」

「いえ、大丈夫そうで何よりです」

にこりと微笑んだ巻毛の男は、片手を上げてその場を立ち去るための一歩を踏み出した。

京都駅の人混みに、追っていた二人を見失いそうだ。

「あ、あの!」

強めに呼び止められた男は、足を止めて振り返る。

呼び止めた女はモジモジしながら、男の顔色を窺っていた。

チラリと追っている二人に目をやった男。二人はエスカレーターで登っている。

上で改札探して迷うだろうし、行く先はバス停のはずだから多少は大丈夫だろう。

「お礼をしたいんですけど、この後お暇ですか?」

「あぁ、すみません。ちょっと急いでまして」

男にとっては日常的によくある事なので、またかとは思ったが、いつものようにサラリと断る。

「じゃ、じゃあ連絡先だけでも!」

断りたい意図を汲み取ってもらえなかったようだ。

「あ、それは彼女に悪いから、ごめんね」

「え、彼女……そっか、そうですよね。やっぱりいますよね、彼女」

呟くようにそう言った女性は、ボロボロと泣き出した。

「ごめんなさい。ちょっと色々あって、勇気出して声かけてみたんですけど、やっぱり彼女が……そうですよね、ご迷惑かけてしまって……ご、ごめんなさい」

顔を手で覆って泣く女性に、巻毛の男は頭を掻いて小さい声で呟いた。

「急ぐんだけどな……」

エスカレーターに目を向けたが、もちろん見えなくなっている。

小さなため息を漏らした男は、泣きやまぬ女の肩にそっと手を置いた。

「そんなに泣いたら、せっかくの綺麗な目が腫れてしまいますよ」

あやすように撫でながら言う。

「とりあえず、ホームから離れましょうか」

邪魔そうな視線と、興味ありそうな視線を周辺から感じながら、その背をそっと押した。







***








「災難でしたね」

「ま、よくある事だ」

よくあるんだ。

え?やっぱりモテ自慢?

美形も大変だなと思いながらコーンスープを飲む。

その頃はすでに、清水寺行きのバスに乗り込んでいたはずだ。

俺には楽しいデートの記憶に戻る。







***







バスを降りた俺達は、坂道を登りながら清水寺までの道のりを楽しんだ。

着物姿の人がちらほら歩いている。

「やっぱり京都って着物姿で出歩いている人多いんですね。普段から着物なんでしょうか?」

辺りを見回している美里先輩に、そう聞いてみた。

「あの人達は、あれじゃない?」

先輩の指差した先にある看板には、着物レンタルの文字があった。

「着付けもしてくれるんだね。へえ、カップルプランだって。ちょっと安いのかな?」

カップルプランだって。

ほんのり自分の頬が染まっている事を無自覚な俺に、先輩は振り返って言った。

「今度ゆっくり回れる機会があったら、着物で京都見学したいね」

「そ、そうですね」

それって、改めてデートしてくれるって事ですか!?

声に出して問う勇気はないが。

「平日だけの特別サービス!この龍笛(りゅうてき)を鳴らす事ができたら、抹茶ソフトが1つタダになるよ!」

2人同時に声の主を見た。

笑顔の親爺(おやじ)が笛を手に、こちらを見ていた。

「そこの学生さん、修学旅行かな?やっぱり京都に来たら抹茶ソフト食べなきゃね」

「1つは買わなきゃダメですか?」

美里先輩が体を傾けて可愛く聞いている。

「2人で1つだけなんて、やらしいなあ。龍笛チャレンジは1つ買ってくれた人だけだよ」

「そうですよね」

あははと笑って誤魔化した先輩の、顔が少し赤く見えた。

2人で1つを想像したのだろうか。

……俺も想像してしまった。

「か、買います!」

顔が赤く染まる前に、慌ててそう言った。

「毎度あり!で、どっちがチャレンジする?」

笛を差し出しながら聞く親爺に、俺は迷わず手を伸ばした。

「龍笛チャレンジって、どれくらい成功するんですか?」

1つ分の代金を渡しながら聞く。

「う〜ん、成功率は半分以下かな。フルート経験者なんかは、音出せる人も多いけど、原始的な楽器だから難しいんだよ。まあ、失敗してもいいから、楽器に触ってみたいって人にはウケがいいんだ」

龍笛経験者ですけど、いいのかな。

「兄ちゃん、いけそうだな」

構えでバレたのかも。

「あ、はい」

一節(ひとふし)吹いてくれよ」

はい、と頷いて笛を構える。

使い込んだ笛は、手に馴染みが良かった。

指孔(しこう)に指の腹が吸い付くような感じがして、少し嬉しくなる。

スッと息を吸い込み、短い独奏を吹いた。

「おぉ〜!小乱声(こらんじょう)だな。若いのにいい音出すじゃないか!」

いつの間にか足を止めて聞いていた人もおり、観客7人が拍手喝采だった。こんなに喜んでもらえると、こちらも嬉しい。

「いい演奏のお礼に、多めにしておくよ。いい宣伝にもなったしね」

後ろを見ると、拍手をくれた何人かが、買うために並んでいた。

「お詳しいんですね」

高く盛られたソフトクリームを受け取りながら、そう声をかける先輩。

「おう、昔ちょっとかじっててな」

もう少し話したかったが、演奏のおかげで後ろがつかえている。

お礼を言ってその場を立ち去った。








「ここが、清水寺ですか!」

なんか写真で見る景色とは違うような気がする。

朱塗りの潜り抜けできる門のような建物の前に、大勢の人が撮影したり、立ち止まって話したりしていた。

「仁王門ね、きっと」

清水の舞台ってやつとは別……だよな。飛び降りるところないし。

「先輩、詳しいんですね」

「これくらいよ、知っているのは」

「チケットと一緒に、マップもらえるでしょうか?」

「うん、あると思う。なくても順路ってどこかに書いてあるだろうし、きっと大丈夫」

まだ明るいし、と空を指差して笑う先輩。

溶けかけのソフトクリームの残りを、二人で急ぎ食べてチケットブースへ向かった。


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