表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たった六ヶ月のラプソディ  作者: ライトさん
7/28

女の子とトンボ

子ども頃から物語を読むのが好きで、何時か自分自身の物語も書いてみたい。そんな思いを抱いて早幾年。書き始めるのももの凄く難しいけれども、それよりももっと書き続けることは難しい。そしてそれよりももっともっととんでもなく終わらせることは難しい。

多くの方々が見事に物語を書き上げ、そして終わらせ切っておられること、本当に尊敬してしまいます。適うなら何時かそんな皆さんの仲間入りが出来たなら、そして誰かの心を満たすことが出来たなら、その時は私にとって最高の一時になる…なりますように!


 翌日の日曜、僕はデジカメを抱えていつもの公園に出かけた。日の光がかなりきつい、でも風が乾いているのでしのぎやすかった。


 女の子である自分の足に合わせた買ったスニーカーで歩いているので今日は気持ちいい。この間の日焼けで学んでいるので、一応日焼け止めだけは塗っているけれど、相変わらず顔はすっぴんのままだ。


 本当は何かお化粧でもすればいいのかも知れない。でも今の僕には女の子の格好をするまでが精一杯で、どうしてもそこまでは思いが届かないというのが実情だった。


 それに時々鏡の中で見る女の子の顔は、とっても綺麗な目をしている可愛い子で、お化粧を必要としているようには見えなかったし、そのままの素顔が一番好きだった。


 僕が僕自身であったなら、きっと彼女になって欲しいなって思う女の子だった。

でも今は僕が女の子になっている時しか会えない女の子だった。


「あ、トンボ」


 芥子色した小柄なトンボが、青空の中をすぅーいと飛んでいる。トンボって秋のイメージがあるのだけれど、こんな時期からでも飛んで居るんだ。


 はやる思いでカメラを向けてはみるのだけれど、被写体として小さすぎる上、動きが素早すぎた。日の光をキラキラと反射させる透明な羽根を撮りたくて、しばらく走り回ったが、とうとう諦めることにした。


「ああ、佐山さん、こっちですよ」


 突然名前を呼ばれて驚きながら振り返ると、それはいつかアザミの花を撮っているときに声をかけてきた吉崎という老人だった。


「ほら、そこの紫陽花の葉の上。あなたが追いかけていたトンボが留まって羽根を休めていますよ」


 見ると、今を盛りにと伸び盛っている紫陽花の濃い緑の葉の上に、つい先程まで飛び回っていたトンボが、ちょこなんと留まって羽根を下げている。


 僕は飛んで行ってしまいませんようにと心の中で祈りながら、ゆっくりとそのトンボの側に移動した。


 そよりと風が吹き、微かに葉が揺れる度に羽根を起こし、また下げる。そんなトンボを目指して辛抱強くゆっくりと近づいていった。


 一瞬の時間が長く長く引き延ばされていく。絞るように息を吐きながら自分の身体が揺れるのを少しずつ押さえる。ゆっくりゆっくり、揺れが収束していく。

僕にとっての一瞬とトンボにとっての一瞬が、静にある瞬間に重なる。


「パシャ!」


 シャッター音がカメラから流れる。まだまだ。この一枚では撮りきれないし、多分望む物は写っていないだろう。


 大きく深呼吸し、体内に酸素を蓄える。徐々に呼吸を遅くし、最後にゆっくりと息を吐きながら心を整える。


「パシャ!」


 そんな調子で全部で六枚ほどの写真を撮っただろうか?何かに気がついたのだろう、ぷいっとトンボはどこかに飛んで行ってしまった。


「ふぅー」


ため息と共に体中に緊張が解けていく。


「写真を撮るというのもなかなか大変なことのようですねえ」


トンボの居場所を教えてくれた吉崎老はそう言いながらなにやら感心しているようだ。


「一枚の写真を撮るのがあれほど大変なのだとは想像していませんでしたよ。あなたが息を止めている間、いつの間にか私まで息を止めていたのですが、嫌その苦しいのなんの」


 僕は彼の独り言のような台詞を聞きながら、今撮ったばかりの写真を再生して見ていた。デジカメのこう言うところは本当に便利だと思う。


 幸いなことに今撮った写真は、それぞれ似たり寄ったりのレベルでまあまあの感じで写っていた。


 その中に一枚だけ微妙に羽根が光り輝いている物がある。見ているとドキドキする。家に帰ってパソコンの大きな画面で見てみないと分からないけど、どうやら良い写真になりそうだ。


「いかがです?良い物は撮れましたかな?」


 そこに来てようやっと僕は彼の方へ振り返り、笑いながら頷いて見せた。

するとそれを見た老は眩しそうに僕を見つめながら言った。


「それは良かった。粘った甲斐があるという物ですね。いや良かった良かった」


我がことのように喜ぶ彼の様に、なんだか僕まで嬉しくなってしまった。


「ありがとうございます、吉崎さんが教えてくださったお陰で良い写真が撮れました」

そう言う僕のことを彼はにこにこしながら見ている。


「さて、余りおじゃまをしてもいけませんな。そろそろ私は退散するとしましょうか」


 そう言いながらのんびりとその場を立ち去り始める。僕はもう一度彼の方へゆっくりと頭を下げた。その彼の上をさっきのトンボかな?すぅーいと飛び越えていった。


 僕は再び一人になった。そしてデジカメのファインダーをのぞきながら公園を彷徨った。

風に吹かれて木々のさざめく音がする。何故だかいつもよりほんの少し心が騒ぐ、そんな気分だった。


 結局僕が家に戻ったのは日もかなり傾いてからのことだった。


 写真を撮る時には、結構その時の自分の心理状態に影響されるものだった。そう言う意味では今日の写真は随分気持ち良く撮れたように思う。それは家に戻って今し方撮った写真をパソコンで開いてみた時にも感じ取れた。


 どこか今日の写真はわくわくするようなところがある。良さそうな写真も結構あったりして、選り分けながら思わず僕は補笑んでしまった。


 全ての写真の整理が終わったのはかなり夜も更けた頃。その日の用事を全て終わらせた僕は、なんだかとても満ち足りた溜め息を吐きながら、あっという間に眠りの世界に落ちていった。



前書きであんなことを書きながら、はたして私はどこいら辺まで来ることが出来て居るのだろうか?千里の道も一歩から、とにかくボチボチ行こか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ