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たった六ヶ月のラプソディ  作者: ライトさん
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女の子の挑戦

子ども頃から物語を読むのが好きで、何時か自分自身の物語も書いてみたい。そんな思いを抱いて早幾年。書き始めるのももの凄く難しいけれども、それよりももっと書き続けることは難しい。そしてそれよりももっともっととんでもなく終わらせることは難しい。

多くの方々が見事に物語を書き上げ、そして終わらせ切っておられること、本当に尊敬してしまいます。適うなら何時かそんな皆さんの仲間入りが出来たなら、そして誰かの心を満たすことが出来たなら、その時は私にとって最高の一時になる…なりますように!


 最初のうちはただの映像を頭の中で思い浮かべるだけに過ぎなかったのだけれど、何度か繰り返すうちに、どう言えばいいのだろう?


 葵ちゃんの魂を送りだそうとイメージしている時に、なんとも言えないねっとりとした抵抗のような物を感じ取れるようになってきていた。

 それが何かなんて言うのは説明しようにもどうにもならない。ただもう僕は今自分に出来ることはそれしかなかったので、全力を込めて集中することにしていた。


 そして何度も何度も葵ちゃんを送り出そうとしては抵抗にあって失敗する。

時にはうまく行きかけてもするりと手の中を抜けてしまうような感じで失敗をする。


 そう言えば昔話に、河童が空の瓢箪を水の中に沈めようとしてうまく行かず、何度も失敗するような物があったのだけれど、例えるなら丁度そんな感じだったかも知れない。


一体どれだけこの試みを繰り返したことだろう。僕は葵ちゃんに話しかけた。


『葵ちゃん、どう?戻れそう?』


しかし残念ながら葵ちゃんの答えは否定的な物だった。


『だめ、もうすぐそこまで行っているような気がするのだけれど、何故かあの身体に入るところまで行かないの』


 入るところまで行かない?自分自身の体だというのにどうして?何かが障害になっているのだろうか?でもその障害って一体何?


彼女の心?それとも僕の心?或いはそれ以外の何か?何が一体どうさせているのだろう?


「ともかくもう一回やってみよう!」


僕が力を込めてそう言うと葵ちゃんはけなげにそれに答えた。


『うん、私も頑張る!』


 例えどんなことをしてでも彼女を身体に戻してあげなくては。僕はかつて経験したことのないくらいの集中力でもってそれを実現すべく頑張った。


しっかりと目を瞑り、自分のもてる全てを握りしめている葵ちゃんの手に集中させた。


『戻れ、戻れ、戻れ!』


 肩に置かれた亮子さんの手の温もりが僕に更なる勇気を与えてくれる。

そうやって僕達はどれだけの時間頑張っていたのだろう?おそらくひとしきりの時間は流れていたと思う。


 それこそあらゆる神に祈りながら集中を続けていたのだけれど、やがてには限界を迎える時がやってきた。

 長く長く潜り続けた水中から空気中に躍り出た瞬間のように、大きく息を吸うと僕は目を開けた。


「大丈夫?良美ちゃん?」


 亮子さんの声がどこか遠くで聞こえているような気がする。心配そうに僕の顔をのぞき込んでいるのだけれど、まるでスクリーンに映った映画のようでなんだか実体感を伴わない、まるで三流の映画のようだった。


 額から汗が流れ落ちるのを感じる。目に入りそうになっているのが分かるのだけれど、自分ではそれが拭くことが出来ない。変だな、手に力が入らないんだ。


そうこうしているうちに亮子さんがハンカチで額の汗を拭ってくれた。


「良美ちゃん、良美ちゃん」


 ようやっと少しずつ目の焦点が合うようになってきた。

そんな僕に亮子さんは更に何度も呼びかけてくれる。ああ、亮子さん、そんなに心配そうな顔しないでよ。

 僕は握りしめていた葵ちゃんの手をそっと離すと、亮子さんの頬に当てた。


「大丈夫だよ亮子さん」


 僕はかすれた声で言った。徐々に身体に力が戻ってくるのを感じる、もう大丈夫だ。

僕はゆっくりと頭を動かすと壁に掛かっている時計を見た。僕達がこの病室にやってきてから既に三時間以上が経っていた。


『葵ちゃんは大丈夫?』


心配になって問いかけると意外にも直ぐに返事が返ってきた。


『私は大丈夫、でも良美さんは大丈夫なの? ものすごく消耗しているみたいよ』


『うん、でも何とか大丈夫。それでどうだった?』


『良くは分からないのだけれど、だんだん近づいてきているようなそんな感じ。何となく壁みたいな物がつかめてきて、今はそれを押したり引いたりしているような感じがしているの』


『そうなんだ、少なくともそこに何かあることは感じられるようになってきたんだね、これはきっと大きな進歩だと思うよ』


 僕は葵ちゃんと話した内容を亮子さんにも説明した。亮子さんはうんうんと頷くと泣き笑いのような顔をした。


「とにかく今日はもうこれくらいにしておきましょう。明日もあるんだから」


そう言う亮子さん。きっと僕のことを思いやってくれているのだと思う。


「うん」


 そう言うと僕は椅子から立ち上がろうとした。その瞬間目の前がすっと暗くなる。気がつくと亮子さんに抱き留められていた。


「大丈夫良美ちゃん?」


自分が考えている以上に消耗しているみたいだった。


「うん、もう大丈夫だよ」


 そう言いながら僕は気を引き締めた。妙な姿を見せてこれ以上亮子さんに心配をかけたくない、そんな思いからだった。


『良美さん、ありがとう』


立ち上がった僕に葵ちゃんが話しかけた。その言葉が僕に力をくれる。


『葵ちゃんは疲れていない?』


『それがね、不思議なの。私はこの姿になってから疲れるって言う感覚をいつの間にか忘れていたの。なのに今はなんだかちゃんと身体があった時みたいに疲れを感じているの』


 それを聞いて僕の心は期待感で膨らんだ。きっとそれは葵ちゃんの心と身体が、僅かながらでも同調し始めている証拠ではないかと考えたのだ。

 あくまで未だ仮説でしかないのだけれど、一つの変化であることには違いないだろう。


「亮子さん」


そう言いながら僕は亮子さんから自分の身体をゆっくりと引き離した。


「何?良美ちゃん?」


 そこで僕は今自分が考えていたことをなるべく分かりやすいような形で亮子さんに説明して見せた。

 亮子さんの不安そうな表情に少しだけれどほっとした物が広がる。やがて亮子さんはぽつりと言った。


「ありがとう」


その言葉に僕は、亮子さんのとても暖かな思いを感じ取ることが出来た。


「亮子さん、未だありがとうは早すぎるよ」


そう言うと亮子さんは微かに笑った。


「そうね、未だこれからなのにね。でも懸命になって頑張ってくれているあなたの姿を見ていたら、自然に溢れてきた言葉なの。私ね」


そこまで言うと彼女は大きく息を吸った。


「私ね、あなたに出会うことが出来て本当に良かったって思っているの」


心がふわっと軽くなった。


「それは同じです」


 僕だって亮子さんに出会ってからどれだけ沢山の心の充足をもらったことだろう。言葉で語ろうにもそれを語り尽くせるだけの言葉を僕は知らない。


「葵はそこにいるのかしら?大丈夫?」


僕は彼女を安心させるように笑った。


「ええ大丈夫、ちゃんとここにいますよ」


そう言うと僕は自分の胸に手を当てた。


亮子さんの表情が和らいでいく。


「さあそろそろ行こうか?」


「はい、そして明日こそきっと・・・」


「うん」


とその時、部屋の中に響いたと有る音。僕と亮子さんは顔を見合わせて思いっきり吹き出してしまった。それはなんと僕のお腹の音。


 静かな病室の中で信じられないくらい大きな音。僕は恥ずかしさで顔を真っ赤にしてしまったけれど、とても笑いを抑えられなかった。

 亮子さんが笑う、僕が笑う、そして葵ちゃんも笑う。三人ともおかしくなるかと思うくらい笑いが溢れてくる。


 余り笑ったので他の病室から苦情が出てくるのではと思ってしまうくらいだった。幸いその苦情は来ることはなかったのだけれど、僕達の中にあった重苦しい物を吹き払ってくれた。


 もちろんだからと言って何かが解決するわけではなかった。でも今はだめでも次こそと言う思いがふつふつとわき上がってくるのを感じていた。


「今気がついたのだけれど私もお腹がぺこぺこよ」


 亮子さんが笑いで溢れた涙を拭いながら言った。僕はこれ以上ないくらい激しく頭を振って同意した。

 笑いの波が通り過ぎたところで僕達はその場を引き上げることにした。


僕はベッドに横たわる葵ちゃんの手をもう一度しっかりと握りしめた。


「また来るからね」


 もちろん葵ちゃん自身が僕の中にいることは知っている。でもそう言わずにいられなかったんだ。


「ありがとう良美ちゃん」


『ありがとう良美さん』


 二人の言葉が耳と心に同時に響いた。明日こそなんとしても結果を出したい、僕は心からそう思った。


前書きであんなことを書きながら、はたして私はどこいら辺まで来ることが出来て居るのだろうか?千里の道も一歩から、とにかくボチボチ行こか。

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