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世界樹の名の元に(仮)  作者: 風鈴草
4/5

四:痺れイチゴとラズベリー(2)



ち、近い…!僕は思わず後ずさる。


「う、わあああ!?」


すると背後にあった、一輪車に躓く形となり

がしゃんっと言う音と共に僕はひっくり返った


「…ッてて」

「ちょっと大丈夫!?」


心配そうに差し伸べられた手をありがたく掴み

僕は立ち上がった。


「あはは、ごめんね、ちょっと先走りすぎちゃった」


彼女は申し訳なさそうに眉毛を下げながら

僕のズボンについていた土を払ってくれた。


「君は…?」

「私はレオローラ!うさぎのしっぽの調香師だよ」

「うさぎの…?」


ぱちくりと瞬きを繰り返して彼女をよく見ると、

ふんわりとウェーブかかった柔らかそうな髪から

ぴょこん、と同じ色をしたうさぎの耳らしき

ものが見える。


「もしかして、跳兎(とと)族?」

「正解〜!ちゃんと尻尾もついてるよ、みる?」

「!?」


そういってレオローラはくるりと後ろを向いて

自分のお尻を指さした。

ショートパンツには尾を持つ獣人特有の切れ込みが

入っており、そこからかわいらしい尻尾が覗いている。

僕は何とも言えない気持ちになり、目を逸らした。


「僕、跳兎族って初めて会ったよ。翼有(よくゆう)族には知り合いがいるけど」

「そうなんだ!じゃあ尻尾触ってみる?ふわふわだよ!」

「な!‥や!!ダイジョウブデス!!」


ちょっと触ってみたい‥という好奇心をなんとか抑え込んだ。

もともと獣人属は数が少なく、世界人口の15パーセントほどだと

学校で習った。多種多様でそれぞれ動物的な特徴を受け継いで

いるらしい。跳兎族は兎の特徴を受け継いでおり、

長い耳と綿のような尻尾、深紅の瞳が特徴だ。

耳がとてもよく高く長く飛ぶことが出来、その可愛らしい見た目から

人気が高く、奴隷商人に乱獲された歴史があるため、

現在はそのほとんどが政府の保護下にあると聞いた。


「ねえねえキミ、痺れイチゴ食べたんでしょ?どんな感じだった!?食べた時どんな香りしたのか教えて?」


ぐいっと両手を掴まれて、またも深紅の瞳が目の前に。

さっきから思っていたけどこの()距離感おかしくないか?!


「なんでそんなこと聞くんだよ、あんまり覚えてないって!」

「え!?それは困るよ!痺れイチゴなんて危険な植物、分かってて食べる人なんてよっぽどマヌケな人しかいないから、サンプルが少ないの!」

「ちょっとそれどういう意味‥」

「いつか痺れイチゴの香りを香水に使いたいと思っててさ!でもさすがに人体に影響があったらまずでしょ?だからキミには‥」

「レオローラ、そこまでですよ」


澄んだ声がレオローラの早口言葉のようなまくしたてを遮った。


「あ!サラ!」

「リタが困っています」

「キミ、リタっていうのね、よろしく!」


レオローラはとてつもなくマイペースな娘らしい。

いつの間にか僕は苦笑いを浮かべていた。


「リタ、もうすぐランチの時間ですが水やりは終わりました?」

「あ、あとこの一列やれば終わります!」

「そう、ありがとうございます。終わったらサンルームにいらしてくださいね、レオローラ、久しぶりにご一緒しませんか?」

「ん!私はまだ調香があるから大丈夫!」

「‥そうですか」

「じゃあね、リタ。痺れイチゴの話はまた今度!」


そういうと彼女は東の建物に消えていった。

気を取り直して水やりの続きを始めるため、ブリキのじょうろを拾い上げる。


「なんだか、嵐のような子ですね」

「ふふ、でも彼女の作る香水はとても人気があるんですよ」

「そういえば調香師って‥」

「城下町で週末だけオープンするお店にはいつも女の子たちが行列を作っています。なんでも使うと意中のお相手との距離が縮まるそうで。」

「女性はそういうの好きですよねえ‥」


妹も去年くらいから急にませだして、母の香水を借りたりしていたっけ。


「最近は男性用のフレグランスも売り出したみたいで、男性の姿もちらほら見えます。」

「‥」

「‥リタ、レオローラと仲良くしてやって下さいね」


物思いにふけていたら、サラの話を聞き流してしまっていた。

慌てて彼女を見ると、少し困ったような悲しそうな表情をしている。


「‥?はい」

「ありがとう。では私はサンルームで待っていますから」


そういってサラは屋内に戻っていった。

まだ水やりが終わっていないペチュニアたちから早く水をかけて、と

催促されている気がする。


「ごめんごめん、今水汲んでくるから。」


気が付いたらお腹が鳴っている。今日の昼は何だろうか。

僕は蛇口を捻った。

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