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イザベル、鼻血を出す



 扉を見れば、ミーアが戻ってきていた。


「イザベル様、戻りました」

「おかえりなさい。随分早かったわね。美味しいものでも食べてゆっくりしてくれば良かったのに。

 ……ミーア、そのお花は?」


 戻ってきたミーアの手には虹色の薔薇があった。前世と今世を合わせても見たことがない美しい薔薇の花にイザベルの視線は自然と吸い寄せられた。


「これは……、皇太子殿下からになります。先程、届きまして……。その、イザベル様へのお手紙も預かっております」


 それは、ルイスがイザベルの元へとこれないことを意味したものだ。部屋のなかは異様な空気に包まれた。


 イザベルが変わったのではという期待。今までのように憤慨し、ミーアにやつあたりをするのではないか、ルイスを呼べと騒ぐのではないか……という不安。

 

 皆が息を()んでイザベルを見守った。


「あら、そうなのね。

 ミーア、帰ってきたばかりで悪いけれどその美しい薔薇を飾ってくれるかしら?」


 ミーアから手紙を受け取りながら、あまりにイザベルが普通のことのように言うものだから、皆一様に安堵の息を吐き出した。



「お嬢様、目が覚めたばかりなのですから、ご無理はくれぐれもなされないでくださいね」

「そうよ。そろそろシェフがお腹に優しい食事を用意し終わる頃でしょうから、食べたら寝るのよ」

「頭もまだぼんやりするのだろう?長居をして悪かったね。ミーア、イザベルをよろしく頼むよ」


 医師と両親はイザベルにゆっくり休むようにと念を押して部屋から出ていった。



 急に静かになった部屋でイザベルは静かに手紙を開いた。


 そこには、イザベルが目を覚ましたことへの喜びと、体調を心配していること。来れないことへの謝罪。

 そして、イザベルへの愛が書かれていた。


 (ひょえぇぇぇぇ!!

 『愛するイザベル』じゃと!!

 『今すぐに会いたい』!?

 『キスしたい』!!?

 『イザベルだけを愛している』!!??

 何なんじゃ。何なのじゃーーーっっ)


 茹で上がったかのように全身を真っ赤に染め、イザベルはベッドに沈んだ。

 心臓の音が頭まで響き、手紙の強烈な内容が頭のなかでグルグルと踊っている。


 記憶が戻る前までのイザベルは、その言葉に頬を染めることはあれど、言われ慣れていた。

 だが、平安乙女のハートになったイザベルには(いささ)か刺激が強すぎた。


 ツーっと何かが鼻からポタポタと零れた。


「イザベル様、鼻血っっ!!」


 花瓶を抱えて戻ってきたミーアの慌てた声が聞こえたが、イザベルの意識はプツリ……と途切れたのであった。




 

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