番外編8 リリアンヌの作戦
今日は定期で開かれるオカメお茶会。
リリアンヌは、イザベルの服装を上から下まで見下ろした。口元が開いたオカメをつけて優雅に紅茶を飲むイザベルの姿も、すっかり慣れたものだ。
「ねぇ、ベルリン。もしかしてなんだけど、オカメ以外の服とか靴とか、ぜーんぶ殿下からのプレゼントなの?」
藤色のワンピースに、銀細工の髪留め。バイオレット色の宝石がついたアクセサリー。
(なんか、全部が全部。イザベルは俺のものだ! って、殿下が主張してるみたいなんだけど)
ルイスの独占欲にリリアンヌは今日もドン引きだ。慣れてきたいっても、ドン引きなものはドン引きなのだ。
そんなリリアンヌにイザベルは不思議そうに首を傾げた。
「よくわかったわね」
「そりゃあ、これだけ自己主張されたらねぇ……」
分かっているのか、いないのか。オカメで隠れている瞳は見えないが、イザベルの口元は笑んでいる。
(わかってないんだろうな。殿下の異様な執着を。そんで、私は親友としてもちろん対抗したいんだよねぇ)
リリアンヌはどうするかを考えながら、イザベルとのオカメお茶会を楽しんだ。
一月後。
リリアンヌは、りぼんのついた小さな包みを持ってイザベルの元へと遊びに来た。
「あら、リリー! 今日はルイス様も来てるのよ。良かったら一緒にケーキを食べましょう! 今流行りのお店のものらしいわよ」
普段であれば、ルイスがいれば遠慮するところだが、この日のリリアンヌはイザベルの誘いに笑顔で頷いた。
(ふふん。殿下が来ていることくらい知ってるわ。こっちには、ミーアが味方についてくれてるんだから。
それにしても、相変わらず殿下を連想させるアクセサリーを着けてるのね。まぁ、殿下が笑っていられるのも今のうちだけどね)
イザベルと共にルイスの待つ客間へと行けば、リリアンヌはルイスから鋭い視線を投げつけられた。
「ごきげんよう、殿下。ベルリンがいいよ! って言ってくれたから来ちゃいました」
まさか、愛しのイザベルがいいって言ったのに、帰れとか言わないよね? と言外に含ませてリリアンヌが言えば、ルイスは優しい目でイザベルを見る。
「ごめんなさい。ダメでしたか?」
「そんなことない。二人の時間が減るのは残念だけどね」
態々、イザベルのとなりに来てそう囁くルイスにリリアンヌは白けた視線を向けたが、イザベルは相も変わらず耳まで真っ赤に染まっている。
(うわぁ。ゲロ甘い。口からだけじゃなくって、鼻とか耳とか穴という穴から砂糖吐きそう)
「ねぇ、ベルリン! 今日はね、ベルリンに渡したいものがあって来たんだ!!」
お砂糖増し増しの雰囲気をぶち壊すかのように、リリアンヌは明るい声を出す。すると、イザベルの視線はリリアンヌへと向いた。
「はい、これ!」
小さな包みには、翡翠色のリボンがついている。
「開けてもいいかしら?」
「もちろん!」
りぼんをほどくと、翡翠色と藤色のビーズが連なったものと、藤の花を連想させる飾りがついている簪が入っていた。
「キレイ……。これは、どうやって使うものなの?」
簪が流通したのは江戸時代。なので、平安乙女なイザベルには、それが何だか分からない。
イザベルが持ち上げると、2つの飾りがゆらゆらと揺れた。
「ミーア、出番よ!」
「お任せください。ささ、イザベル様。お髪を失礼しますね」
リリアンヌは、事前にミーアへ簪の使い方をレクチャーしていたのだ。
あっという間にミーアはイザベルの髪をまとめて後頭部にお団子をつくると、簪を差す。
リリアンヌはその間にイザベルに手鏡を渡し、姿見を用意した。
「どうかな?」
手鏡を覗き込み、姿見に映った自らの髪に刺さる簪を見てイザベルは目を丸くした。
「ベルリンと殿下の瞳の色をイメージしたんだけど、気に入らなかった?」
不安げなリリアンヌの声に、イザベルは大きく頭を振った。
「ううん! すっっごく素敵!! リリー、ありがとう!!」
イザベルの笑みにリリアンヌは、ほっと息を吐く。
「良かった。ベルリンが好きなものをイメージして作ったんだ」
「リリーが作ったの!?」
イザベルの驚きに、リリアンヌは照れ笑いを浮かべながら頷いた。
「ありがとう! 本当に本当に大事にするわね!!」
感激で瞳を潤ませながらイザベルはリリアンヌの手を握る。その後ろで、ルイスが複雑な表情をしていることにリリアンヌはほくそ笑んだ。
(ベルリンと殿下の瞳の色に、思いでの藤の花をモチーフに作ったんだもの。文句も言えないでしょうよ)
こうして、リリアンヌによるイザベルの『全身がルイスからの贈り物阻止作戦』は無事に成功を治めたのであった。




