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番外編6 2つの生首と前世

イザベルが結婚して1年くらいの頃です。


 今日はひな祭り。とは言っても、乙女ゲームの世界であるキミコイにはひな祭りなんてものはない。

 

 

 (うわぁぁあ。間に合わなかった! 一月前からじゃ遅かったか。でも、夜までには何とか……)

 

 この日、リリアンヌは仕事を休み、懸命にあるものを作っていた。ここ数日の睡眠時間は短く、徹夜明けの顔にはクマができている。

 

 黙々と縫い続けるリリアンヌは、部屋にローゼンが来たことに気が付かなかった。

 

 (何を作っているんだ? )

 

 テーブルの上の小さな生首のようなものが2つ。そのリアルな顔にローゼンは頬をひきつらせながらもリリアンヌへと声をかけた。

 

「リリ」

「えっ? ────っ!!」

 

 ぷすり、と針はリリアンヌの親指の腹へと突き刺さり、ぷくりとした血の玉ができる。

 

「ティッシュ、ティッシュ!」

 

 折角作ったものに血がついたら大変と、ティッシュへと血が出た反対の手をリリアンヌは伸ばす。だが、ティッシュに手が届く前にパクリ、と何かがリリアンヌの指をくわえた。

 

「へっ? ゼッ、ゼゼゼゼ」

 

 (たっ、食べてる! ゼンが私の指を食べてるんですけど!!)

 

 顔を真っ赤にし、瞳に涙を溜めたリリアンヌの指をローゼンは静かに離した。

 

「まだ、止まってないな。痛いか?」

「もっ、もう大丈夫!!」

 

 (カッコいいー! しかも、色気がヤバい!! うぁぁぁあー、もう──)

 

「──好き」

「俺も。……リリが好きだ」

 

 お菓子よりもあまい雰囲気なのだが、2つの小さな生首からの視線を向けている。その視線に、ローゼンは疑問を解消するのが先だと結論付けた。

 

「リリは何を作ってたんだ?」

「雛人形だよ」

「雛人形?」

 

 そう、テーブルの上の小さな2つの生首の正体は雛人形の顔のパーツだったのだ。

 

「こういうのを作りたいの」

 

 そう言って渡されたイラストをローゼンは眺めた。

 

「この台のようなものは、もうできているのか?」

「ううん。時間もないし、そこは諦めようと思って」

「それは俺に任せてくれ」

 

 リリアンヌの指に包帯を巻き、台の大きさを確認したローゼンは、また後で来るとリリアンヌの部屋を出ていった。

 

 (ゼン、何か用事があったんじゃないのかな?)

 

 絆創膏がこの世界にはないために巻かれた包帯を見て、リリアンヌは小さく笑った。

 

 

 そして、その日の夕方。完成した雛飾りを持ってリリアンヌとローゼンは城へと来ていた。皇太子夫妻からディナーを招待されていたのである。

 

 (ふふっ。ベルリン、びっくりするかな? )

 

 イザベルが好みそうな風貌のお雛様が入った紙袋をリリアンヌは大事に胸に抱えた。そして──。

 

「まぁ! なんて素敵なのかしら。この十二単(じゅうにひとえ)も本当に細かく作られてるわ!!」

「わかる! そこ大変でさ……ぁ……。えっ?」

 

 (あれ? ベルリン今、十二単って言った? )

 

「これは見た目は素敵なのだけど、着ると重いのよね。懐かしいわ……」

 

(いや、まさかとは思ったけど。そんなことって……)

 

「ベルリンって、着物来たことがあるの?」

「えっ? あっ……、リリーはなぜ着物を知っているの?」

 

 ((まさか……))

 

 

 この日、遂に互いが転生者であることをイザベルとリリアンヌは知った。

 だが、リリアンヌがイザベルが平安の姫だったということを知るのはもう少し先の話である。

 

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