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番外編4 バレンタインデイ

両思いから結婚くらいまでの間のお話です。

 

 バレンタインデイ前日。イザベルはリリアンヌに誘われてチョコレート作りをしていた。

 

 

「パティシエじゃなくても、本当にお菓子が作れるの?」

「簡単なものならね。私はガトーショコラにしようかな。ベルリンはどうする?」

「いっ、一番簡単なものでお願いできるかしら」

「そしたら、トリュフにしようよ。よし! まずはチョコレートを刻もう」

 

 包丁を持ってリリアンヌは手際よくチョコレートを切っていく。その隣で同じ作業を始めたイザベルだったが──。

 

「ちょっ、ちょっと待って! それじゃあ、指が切れちゃう!!」

「ああぁ。生クリームは沸騰させちゃダメだよー」

「ベルリン、熱いから直で触んないで!」

 

 などなど、リリアンヌが思ったよりもずっとお菓子作りができなかった。それもそのはず、前世はお姫様、今世は公爵令嬢。お菓子が食べたければ、屋敷のパティシエが作ってくれるのである。

 

「なっ何とかできた」

「ありがとう、リリー。でも……」

 

 どうにか形にはなったもののトリュフは(いびつ)で決して美味しそうなものではない。

 

「ベルリンが作ったんだから、絶対に喜んでくれるよ」

 

 (ベルリンが作ったものなら、例え毒だと分かっていても喜んで食べそうなくらいだもん。形はともかく、チョコの味は大丈夫だから感激しながら食べるでしょうね。……食べるよね? もったいなくて食べれないとか言って、とっておかないよね? )

 

 一抹の不安を抱えながらも、リリアンヌは安心させるように笑った。

 

 

 

 翌日。綺麗にラッピングされた歪なトリュフを抱えたイザベルはオカメを着けた。

 

 (二人きりとはいえ、照れるのぅ。顔を見て渡すのは無理じゃ! )

 

「あの、ルイス様……」

 

 名前だけを呼んで渡した藤色のりぼんが巻かれた小さな箱。

 

「開けてもいいか?」

 

 (あの歪なチョコを目の前で見られるのか? それは、拷問じゃぁ)

 

「恥ずかしいので、あとで見てくださいませんか? それと、もしあれなら捨ててくださいね」

 

 オカメで顔を隠していても真っ赤な耳が見えている。それをルイスは不思議に思いながらも箱に視線を落とした。

 

「イザベルがそういうのなら、あとで見よう。だが、捨てるなどあり得ないからな」

 

 捨てないと言ってくれたことに喜びつつも、イザベルは落胆した。

 

 (いやいやいやいや、われがあとでと頼んだのじゃ。なぜがっかりする必要がある。感謝じゃ、感謝をせねばならぬ)

 

「ありがとうございます。あと、こっちも渡しておきますね」

 

 そう言って、今度は深紅のりぼんがついた先程よりも少し大きめの箱をルイスへと渡した。

 

「なぜ、2つあるんだ?」

「えっ……と。保険と言いますか、万が一と言いますか……」

 

 言い淀むイザベルに、今朝リリアンヌが「絶対に喜ぶとは思うけど、ヘタなこと言わないでくださいよ。まぁ、大丈夫だと思いますけど」と自身に言ってきたことをルイスは思い出す。

 

 (イザベルは、保険、万が一と言ったな。それにあれなら捨てて欲しいと……。それに今朝のフォーカス嬢(小娘)の言葉。まさか──)

 

 ルイスは急いで藤色のりぼんで飾られた箱を開けた。そこには、プロが作ったとは思えない、歪なチョコレートが並んでいる。

 

 バッと音が鳴るのではないかと思うほどの勢いでルイスはイザベルを見た。相も変わらずオカメからのぞく耳は真っ赤で、それが答えだった。

 

 (顔が見たい……)

 

 ルイスはイザベルに近付くと、そっとそれを外した。恥ずかしいのだろうか、頬だけではなく顔全体が朱に染まり、視線は伏せられて長いまつ毛は震えている。それでも、昔のように顔を隠そうとはしなくなった。

 

「イザベル、ありがとう。大切に食べるよ」

 

 編み込まれた髪の先にルイスは唇を落として笑う。その笑顔を見てしまったイザベルはこれ以上赤くなれたのかというほど、更に赤く染まったのであった。

 

 

 

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