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重なる手


「その前に、ナナセさんの解毒をしろ」


 リクがそう吠えれば、イザベルは没収されていた自身の鉄扇を広げ、高らかに笑う。


「そんなものありませんわ。放っておいても1時間もすれば元に戻りますもの。私も試しましたし、間違いはございませんわ」

「いや、試すなよ。危ないだろ」


 そうツッコミを入れたナナセにイザベルは首を傾げる。


 (悪者感が足りぬのぅ。高位貴族の令嬢誘拐など死刑になってもおかしくない。そのくせ、相手の心配をするとは。

 何がこやつ等を追い詰めたのか。まぁ、迎えが来るまでにゆっくり聞けば良かろう)



「それで、今回の犯行の動機は何かしら? 答えによっては協力をしてさしあげますわ」


 イザベルの質問にナナセは驚くほど素直に答えた。協力という言葉が効いたのか、はたまた既に捕まったことで観念(かんねん)したのか。



「嘘よ!! お父様がそのようなことをするけないわ!!」


 話の途中でアザレアが叫び、ナナセの背を睨み付けている。だが、ナナセは気にすることなく話を続けた。


「証拠はとってある。だが、俺たちだけでは握り潰される。最初で最後のチャンスなんだ。協力してくれ」


 縛られて、地面に転がされたままの状態でナナセがイザベルに頭を下げれば、ザリッと顔が地面に擦れる音がする。

 それにイザベルは答えることなく、後ろを振り返った。


「お話はこれで終わりですわね。迎えが来たようですわ」


 右のヒールの(かかと)から小型のナイフが飛び出したままイザベルは立ち上がる。


「──ルイス様」


 来てくれると思っていた、必ず。だから、イザベルはこんなにも落ち着いていられたのだ。


 (まさか、こんなにも揺るぎなく助けが来ると思えるとは……)


 オカメの下でイザベルは笑う。そして先程とは違い、今度は大きな声でルイスを呼んだ。


「ルイス様!」

「イザベル!!」


 気が付けば、足が動き出していた。自らの足で、馬から飛び降りたルイスの元へと走っていく。

 手を伸ばせば触れられそうな距離まで近付くと、イザベルはルイスに引き寄せられ、抱きしめられた。


「無事でよかった。また、(うしな)うかと……」


 (かす)れた声がイザベルの鼓膜(こまく)を揺らす。息は上がり、鼓動はいつもより速く、汗でシャツは濡れている。

 どれだけ急いでここまで来てくれたのか。その想いに、抱き締められたルイスの体温にじわじわとイザベルも熱を帯びていく。


「怪我は? 面を外して顔を見せてくれないだろうか」


 その声に躊躇(ためら)いもせずにイザベルはオカメを外して泣き笑いのような表情を浮かべた。

 頬をルイスの手のひらが包む。その温かさに一筋の(しずく)がこぼれ落ちた。


 (怖くなどなかった。必ず来てくださると分かっておったから。それなのに、何故ゆえ涙が出る)



「必ず来てくださると信じておりました」


 イザベルは、頬を包んでいるルイスの手に自身の手を重ねた。それは、記憶を取り戻してから初めてのイザベルからルイスへの温もりだった。






 


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