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縁の方向は


 一方、その頃のルイスはというと……。


「カミン、ミルミッド侯爵家の取引先はどうなった?」

「んー? 大手は全部撤退したみたいだねぇ。もともと黒い噂も多かったし、皇家を敵にまわしてまで取引したくはないでしょー?」


 ミルミッド侯爵家を皇家が良く思っていないという噂を流した張本人(ちょうほんにん)であるカミンはケラケラと楽しそうに笑う。


「それに、アザレアはさぁ。ジュリアのことイジメ過ぎたからねぇ。イジメていいのは俺だけなのにさー」


 一瞬、笑みが引っ込んだカミンにルイスは溜め息を吐いた。


「そんなに大事なら、もっと優しくしてやればいいだろ」

「何言ってるのぉ? 俺の言葉に傷付くほど、嫉妬で狂うほど、可愛いんじゃん。リリちゃんのおかげでまともに戻っちゃったけどさぁ」


 カミンの発言に、そこにいた者は皆、ジュリアを気の毒に思う。ある意味、ルイスより(たち)の悪い男なのである。



「とにかく、ルイスの指示通りにちゃーんと噂は流しといたんだから、側近にしてよぉ? 俺の立場が磐石(ばんじゃく)なほど、ジュリアは逃げられなくなるからさー」

「分かってる」


 逃げられないであろうジュリアを気の毒に思いながらも、自分も同じだとルイスは冷めた笑みを浮かべる。


「こえー。ああ言うのを類は友を呼ぶって言うんだろ?」

「メイス、少し黙っていた方が身のためですよ」


 意味がわからないと顔をしかめるメイスにヒューラックは溜め息を吐き、シュナイは祈りを捧げた。


「おい、シュナイ。それはどういう意味だよ」


 流石に不穏なものを感じたらしい。だが、時すでに遅し。指で指された方を振り向けば、笑顔のカミンが真後ろに立っている。


「メイスはさぁ。学習能力のないおバカさんなのかなー。確かにメイスと一緒にされるよりはマシだけど。ルイスほどじゃないからねぇ?」

「カミン。お前も俺に失礼だ」

「ルイスは他人に何と思われても気にしないからいいんだよぉ。俺は気になるからさー」


 ヘラヘラと笑っているカミンは、今にも歌い出しそうなほどご機嫌だ。メイスで遊び倒す気満々なのである。


 だが、それが行われることはなく、部屋の空気が急に重くなった。



「イザベルに何かあった」


 ルイスはイザベルと繋がれている鎖のような縁をじっと見詰める。その縁はしっかりと繋がったままだが、新しい小さな傷が入っている。


 (傷だけではない。縁の先がミルミッド侯爵家の方向を向いていない……)



「ゼン、付いてこい」


 返事を聞く前にルイスは剣を取り、走り出す。その後ろには、遅れをとることなくローゼンがいる。


「俺が行っても足手まといだから、変わりにこいつに行かせる。何かあれば、使ってくれ」


 いつもの伸ばした口調を引っ込めてカミンが叫ぶ。


「感謝する。騎士団が出動できる準備を頼む」


 

 ルイスとローゼンは、豪邸のような馬小屋からそれぞれ白馬と黒馬に(また)がると猛スピードで駆け出して行く。

 その上にはカミンの(たか)がいる。



 ルイスは迷う素振りもなく、縁を辿ってイザベルの元へと走っていく。


 (気付くのが遅れた。どうか、無事でいてくれ)


 その願いに縁が少し揺れた気がした。






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