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砂上の楼閣


 まるで、時が止まったかのように静まり返る。


 いつもオカメを被っているが、イザベルは絶世の美女なのだ。

 真っ白なキメの細かい美しい肌に、輝くような金の髪。翡翠(ひすい)色の瞳、けぶるように長い睫毛(まつげ)。赤い唇は魅惑的だ。

 ルイスはイザベルを女神よりも美しいと言う。それはルイスが盲目的にイザベルを愛しているからなのだが、事実なのである。

 もちろん、ルイスはイザベルが本当にオカメ顔でも同じ事を言っただろうが。



 入学から2年と少し経った今、皆の記憶よりも大人になったイザベルは、やはり美しかった。幼さを残していた顔は大人びて、化粧も薄くなったせいか少しキツい印象もない。

 もともと美しかった花は、更に美しくなった。アザレアですら、時を忘れて見惚(みほ)れてしまうほどに。


「オカメさん、イザベル様だったんだ」


 静寂のなかで呟かれたメイルードの声は、よく響いた。その呟きで我に返った令嬢達はざわめきだす。



 誰もオカメの下が本当にイザベルだなんて思わなかった。姿と髪色が似た別人をマッカート公爵家が面をつけて学園へと通わせているのだと。


 オカメを着けたイザベルにどう接したのか、イザベルと親しくしているリリアンヌに何をしたのか、どうすれば自身を守れるのか……。アザレアについていたほとんどの令嬢が青ざめるなか、誰かが言った。


「私、用事を思い出しましたの。申し訳ありませんが、失礼しますわ」


 それを皮切りに、次から次へとお茶会を去っていく。アザレアとは無関係だと言うように。中には、アザレアの止める声に申し訳なさそうな表情を作る者もいたが、それも多くはない。

 皆一様なのは、イザベルには深く頭を下げて行くということ。


 そうして、残されたのはイザベル、アザレア、ジュリア、メイルード、そしてアザレアの取り巻きのローレル、アイリーン、レバンテだけとなった。



 ルイスの息がかかった令嬢が一言発しただけで、一人が立ち去っただけで、お茶会は驚くほど呆気(あっけ)なく瓦解(がかい)したのであった。



 (人を集めたが、維持できなかったか。まさに、砂上(さじょう)楼閣(ろうかく)じゃな)


 憐れみの視線をイザベルはアザレアへと投げる。だが、アザレアはそれを睨み返した。



「ローレルさん、アイリーンさん、レバンテさん。貴女方も帰ってよくってよ」


 その言葉に3人は視線をさまよわせた後、無言で立ち去った。アザレアのところには誰もいない。その姿にイザベルは過去の自分を見た気がした。全てがルイスだけだった頃の、自分を。



「イザベル様は、これで満足かしら? 正体を明かして、私に恥をかかせて……。これでもう、社交界のトップになれる日は一生来ないわ。とても滑稽(こっけい)に見えたのでしょう? 楽しかったかしら。

 ジュリアさんもマリンさんも、どうせ心の中で私を笑っていたのでしょうね」


 敵意を含んだ視線にジュリアとメイルードは首を大きく横に振る。けれど、アザレアは視線を鋭くするだけだ。

 その視線を浴びてもイザベルだけはいつもと変わらない。口元は笑んでおり、余裕を感じる表情でアザレアを見据える。



「ジュリアさんとメイルードさんに謝罪を要求しますわ。当然、リリーにもでしてよ」


 凛とした声でイザベルは言う。オカメを外しても自分の味方でいた二人に、イザベルは勇気付けられていた。

 今のイザベルに怖いものはない。


「「イザベル様……」」


 そんなイザベルにジュリアとメイルードは感激し、アザレアはつまらないものを見るような表情をした。


「私から何かをするようになど、言ったこともありませんわ。なぜ、謝罪をしなくてはならないのかしら」


 確かに、アザレアは言及(げんきゅう)したことはない。イザベルに対しては色々とやってしまったが、それまでは言質(げんち)を取られるようなことはしていないのである。


 



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