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アザレア劇場


「イザベル様は、レインボーローズを見たことがありますのね。流石、ルイス様の婚約者ですわ」

「そうですわね。ですが、それは本当に貴女への贈り物なのかしら?」

「確かに、別の方への贈り物かもしれませんわね」


 クスクスと嫌な笑い方をしながら、3人の令嬢はイザベルを見る。


「ローレルさん、アイリーンさん、レバンテさん、折角いらしてくださったのに、そのようなことを言ってはいけませんわよ」


 アザレアは困ったような表情を作ってはいるものの、それは表情だけ。まるで、見る価値もない芝居(しばい)を無理矢理見せられているような気持ちにイザベルはなった。



 (一応、止める(てい)はとったが、われへの批判は止めぬと。馬鹿馬鹿しい。

 たかだか侯爵家で、何を思い上がったか。家格の違いも理解できず、礼儀も知らぬ、たわけ者が)



「ふふっ。一体、どういう意味でおっしゃられたのか興味がありますわ。是非とも、詳しく聞かせて頂きたいですわね」



 サッと扇を出してイザベルは顔の半分を隠す。そう、ここからがイザベルの一番の正念場だ。例え、自身が辛い思いをしようとも目的は果たす。

 決意をしてきたはずなのに小さく手が震える。だが、気付かせては有利な立場には立てない。


 (恐れることはない。今更じゃ。アザレア、今日でそなたの天下は終わりじゃ。反リリアンヌ派は必ず解体させる。二度と楯突(たてつ)けぬようにしてやるわ)


 心配そうにこちらを見ているメイルードとジュリアの視線にイザベルは励まされる。



「ねぇ、アザレアさん? 貴女は礼儀作法と教養が足りてないようですわね。もう少し、お勉強をなさいませんと。

 あぁ、だからBクラスでしたのね。良い家庭教師をお教えしますわ。きっと、貴女でもきちんと分かるように教えてくださいますわよ」


 小首を傾げて言えば、アザレアは顔を引きつらせた。それを見て、心に少し余裕ができたイザベルは、言葉を重ねる。



「それに、主催者がゲストを貶めることに加わるだなんて、驚くほど良い性格をなさっていますのね」

「私はイザベル様を貶めてなどおりませんわ。勘違いなさるのは、止めてくださいませ」

「……私のことだとは言ってなくてよ」


 顔色を変えたアザレアを、イザベルはオカメの下で冷めた瞳で見た。その瞳の中には(あわ)れみも混じっている。


 (いとも簡単に引っかかったのう。権力にものを言わせておったということか。そのようなことをしても(むな)しいだけだと、気がつけぬか。以前のわれのように……)


 イザベルは瞬き一つで憐れむ心に(ふた)をする。



「アザレアさんが、私のことを、スコルピウス公爵家を、軽んじていらっしゃることはよく分かりましたわ」

「そういう貴女こそ、ミルミッド侯爵家(我が家)に奇妙な面を着けてくるなんて、どういうおつもり? 噂はやはり本当なのかも知れませんわね」


 負けじと言い返してくるアザレアに噂とは何かを聞くべきだろう。だが、イザベルはその前にどうしても言わなければ気が済まなかった。



「奇妙な面……とは、何のことをおっしゃっているのかしら?」

「その貴女がオカメと呼んでいるものよ! そんな気味の悪いものをつけて、よく人前に出られますわね」

「気味の悪い? 貴女、頭がおかしいのではなくて? この素晴らしさを理解できないだなんて、信じられませんわ」


 鼻で笑いながら言ったイザベルに対し、アザレアは気持ちにゆとりができたように侮蔑の視線を向ける。


「そんなものを素晴らしい? 笑わせないでくださる? イザベル様は美に(うるさ)い方よ。そんなものをつける時点でおかしかったのよ。

 でも、誰もが()()()を連想して言えなかったわ。だから、今日、私が皆さんの代わりに言いますわ!!」


 演説するかのように立ち上がったアザレアに、彼女の取り巻き達は拍手をし、「流石、アザレア様!!」「なんて、勇気がおありなのかしら!!」と次々と口にした。

 それに気を良くしたアザレアは、口元に笑みを描く。瞳には自信が(あふ)れている。


「貴女、偽者でしょう? あまりにも悪事を働きすぎたからと、別人を学園に送り込むなんて、マッカート公爵家も落ちたものですわね!!」


 ビシッとイザベルを指差して、アザレアは高らかに言い放った。





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