黄色の般若は婚約者
ジュリアから説明を聞いたイザベルは大きく頷いた。
「分かったわ。お茶会に行けばいいのね」
あまりにもあっさりも引き受けたイザベルにリリアンヌは慌て、ジュリアは目を見張った。
「待って! どう考えても罠でしょ!? ノックールさんは可哀想だけど、ベルリンが態々行くことないって」
「でも、私が行かないとジュリアさんが困るわ。お茶会に一度顔を出すくらい何てことなくてよ」
穏やかに言うイザベルに、ジュリアは良心の呵責に苛まれる。
(こんなに誰かに話を聞いてもらえたのも、心配してもらえたのも、久しぶりだわ。
それなのに、本当にイザベル様にお茶会に行ってもらってもいいのかな。親切にしてもらったのに、私はアザレア様の罠にかかりに行って欲しいとイザベル様に頼むの? そんなの──)
「イザベル様、ごめんなさい。やっぱり、私が招待状を持ってきたことは、なかったことにしてもらっていいですか?」
(もう、諦め時なんだわ。愛されたくて、振り向いて欲しくて、いつの間にか婚約者でいられるためなら、少しでも彼のためになるのなら何をしても良いなんて思ってしまった。
般若にヤられた時に、今の自分の醜さに気が付ければ良かったのに。権力を欲せずに、アザレア様の取り巻きを辞めておけば良かったのに。
せめて、これ以上ご迷惑をかける前に止めなくちゃ。直接は伝えられる自信がないから、お手紙で婚約破棄することを伝えよう。三男だからって、侯爵家の方が私なんかと婚約して下さっていた奇跡に感謝しなくちゃ)
憑き物が落ちたような表情でジュリアは頭を下げた。
「急にお邪魔してご迷惑をおかけしました。招待状は持って帰ります」
そう言って立ち上がったジュリアの手から、イザベルは招待状を抜き取り、それを見たリリアンヌは困ったように笑う。
「ジュリアさん、安心なさって。姑息な方になんて負けませんわよ。
大丈夫ですわ! 小娘なんか怖くありませんもの。おーほほほほほ……」
オカメをしたまま高笑いするイザベルに、ジュリアは肩をびくりと揺らす。そんなジュリアの肩をリリアンヌは軽く叩く。
「お茶会の件は、こっちでどうにかするわ。ほら、ベルリンの最恐の婚約者がアザレア様を放っておくわけないし。
それより、婚約者とちゃんと話しなよ。一方的に婚約破棄するのは良くないと思うよ」
「……ご存知でしたか」
「正直、思い出したのは、ノックールさんが般若達にやられた日なんだけどね」
「そうでしたか。フォーカスさんを貶めることを言ったり、上履きを切ったりと、今まできちんと謝罪もせず、本当に申し訳ありませんでしたわ」
この短時間で何があったのか……。リリアンヌは心の中で疑問に思いながらも、謝罪に対して小さく首を振る。
「金銭で既に話はついてるから。
それに、私も謝らないと。一時、カミンのことも狙ってたんだ。ごめんなさい。
あと、ノックールさんを取り囲んでいた黄色の般若、カミンなんだ……」
「嘘、ですよね?」
リリアンヌはジュリアの顔を見ることができず、スッと目を逸らしたのだった。




