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お茶請けは魔の……


 甘いものを食べるわけにはいかないジュリアは、アザレアに賛同しようとしたが、イザベルの「次に悪さをしたら、また般若とオカメが許しませんことよ! おーほほほほほ……」という言葉が頭を(よぎ)る。


 (どうすれば……)


 だが、身の振り方を決めるのを、アザレアは待ってくれるわけもなく──。


「手が汚れてしまったわ……」


 生クリームやスポンジが着いてしまった手をぷらぷらとジュリアの前に出してきた。

 ジュリアは膝をつき、丁寧にアザレアの手を拭いていく。



「ねぇ、ジュリア」

「……はい」

「マリンはこんな態度だけれど、2番目に目障りなフォーカス嬢(あの女)へと|嫌がらせを成功した(やった)わよ。でも、貴女はどうかしら?」

「もっ、申し訳ありませんわ」


 深く頭を下げて謝罪するが、アザレアは鋭い視線をジュリアへと投げ続ける。


「次のお茶会には、必ず連れてきなさい。他の方を連れてきてはダメよ? お一人で来てもらうの。それができなければ……、分かっているわよね?」


 きれいになった手でメイドから一通の手紙を受け取り、アザレアから笑顔で渡されたジュリアの手は震えていた。


 渡すも地獄、渡さぬも地獄。


 ジュリアはぎこちない笑みを浮かべながら、頷いた。


「皆さん、ジュリアが次のお茶会に連れてきてくださるそうよ。楽しみですわね。

 ……あら、今すぐにお手紙を渡してきてくださるの? そんなに張り切らなくてもいいのに、仕方がないわね。

 気を付けて、いってらっしゃい。良い結果を持っていらしてね。期待しているわ」


 ジュリアはアザレアのお茶会から追放された。今後、アザレアの元に戻るには、イザベルを一人でお茶会へと連れてこなくてはならない。


 (もう、ダメかもしれないわ。イザベル様、学園に入学してからは一度も他家のお茶会やパーティーに参加されてないもの)


 マッカート公爵家へと走る馬車のなかで、ジュリアは愛しの婚約者を想う。


 (きっと今度こそ婚約破棄される。だって、私のことなんて全く好きじゃないもの。アザレア様に目をつけられた私なんて邪魔でしかなくなるわ)


 ジュリアの瞳からは一粒、また一粒とこぼれ落ちていく。


「うっ……、うぐぅう……」


 どうにか堪えようとしたら、潰れたような声が出た。そんな自分の無様さに耐えるようにギュッと瞳を閉じる。


 馬車は、マッカート公爵家へと進んでいく。イザベルへ宛てられたお茶会への招待状の文字は滲んでいた。




 マッカート公爵家についた馬車から、重い足取りでジュリアは降りた。そして、応接間でイザベルを待つ。


 待っている間にメイドがお茶とお茶請けを出したのだが、そのお菓子にジュリアは震えた。


「お菓子は下げてちょうだい!!」


 尖った声が出たが、そんなことを気にする余裕はジュリアにはなかった。お茶請けのお菓子が魔のクッキーだったから。


 口のなかでは唾液(だえき)が溢れ、『食べたい!!』という欲求に耐えるために手の甲に爪を立てる。


「畏まりました。……そんなに食べたいなら食べれば良いのに。そして、太ってしまえばいいのになぁ」


 ジュリアは自身の欲求と戦うことに懸命で、メイド(ミーア)の声は耳に届かなかった。


 ミーアがお茶請けのクッキーを片付けていれば、いつものオカメをつけてイザベルがリリアンヌと共に応接間へと来た。

 一人で行こうとするイザベルをリリアンヌが心配で付いてきたのだ。


 二人はジュリアの泣き腫らした目を見て、顔を見合わせる。


 (……うむ。罪は裁かれたしの、リリーが気にしないのであれば普通に接するかのぅ。

 しかし、何があればあの様な顔で来るのじゃ?)


 (うっわ! ひどい顔。なんか、可哀想だなぁ。とりあえず、目は冷やさないと)


 リリアンヌはミーアに目元を冷やすものを頼むと、ソファーに腰を掛けているジュリアの前にしゃがむ。


「何があったの?」


 その声色は優しかった。

 

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