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私が可愛いって? 知ってます


 教室を出たリリアンヌは、鞄からごそごそと取り出したオカメを着けた。そして、授業前で人気(ひとけ)のなくなった廊下を大股で歩いていく。

 オカメを着けたことで、リリアンヌは感情を抑えるのを止めた。眉間にシワを寄せ、眼光が鋭くなったリリアンヌは、防音完備のレッスンルームへ入ると鍵をかけた。


 レッスンルームは一部屋六畳程で、楽器演奏を練習したい生徒のために常に解放されている。見張りの警備員が巡回には来るものの、既にその警備員のおじいちゃんはリリアンヌの知り合いで、たまにお菓子の差し入れをする間柄なので、一回くらいならサボりも見逃してくれるだろう。


 リリアンヌは、小さなメモ帳をポケットから出し、一人の女生徒の名前を探す。


「ジュリア・ノックール、ジュリア・ノックールは……」


 メモを3枚ほどめくるとその名はでてきた。1年の夏休み明けから嫌がらせを受け始めたリリアンヌは、自身を故意に無視したり、聞こえるように陰口を言う等の嫌がらせをした生徒を記録していた。

 子爵家と立場が弱い自分が攻撃を受けた時に、少しでも反撃できる要素が欲しい気持ち半分、いつかこのメモを元に仕返しをしたい気持ち半分といったところだろうか。


 (ふーん。かなり初期から私への悪口を言ってるわね。尻軽に無能、男に媚びるしか能がない、良いところは顔だけ……ね。

 いやいや、私はAクラスなのに、ジュリア・ノックールはCクラスじゃん。

 少なくとも、顔も頭も上なんだけど。あれ? この子の婚約者って……。うわ、忘れてた。そういうことかぁ。悪いことしちゃったなぁ。

 けどさぁ、それでもやって良いことと悪いことってあるよね……)


「恋が絡むと人はやっぱりこういうことをしちゃうのかな……。とにかく、これは私が個人的に話すべきよね」


 朝、イザベルに追いかけられていたジュリア・ノックールを思い出し、リリアンヌは笑みを浮かべる。


「私も悪かったけど、散々言ってくれたんだから、いい気味だわ。おーほほほほほ……」


 オカメを着けたままのリリアンヌは、イザベルを真似して高笑いをしてみる。すると、不思議なことに幾らか気持ちがスッとした。


 (何故かオカメを着けると気分が落ち着いてくるのよね。考えもまとまるし。何だか最近は癖になってきちゃった。イヤだなぁ)


 気が()んだリリアンヌはオカメを外し、鞄へと仕舞(しま)う。そして、レッスンルームの鍵を開けて、部屋から出たところで声をかけられた。



「フォーカスさん。少しお時間よろしいかしら?」


 いかにも意地悪そうな令嬢3人組にリリアンヌは小さく首を傾げた。


「今、授業中ですよ?」


「貴女だってサボってるじゃありませんの!」

「たかが無領地子爵家のくせに生意気よ!!」

「本当に顔だけが取り柄の方って嫌ですわぁ」


 授業中だと伝えただけで、この言われよう。見た目通りの意地悪な令嬢に絡まれたことにリリアンヌは心の中で溜め息をついた。


 (なんか、面倒そうな下っ端(したっぱ)が出てきたんだけど。もう我慢する必要もないし、やり返しちゃおうかな。

 大人しくしてても、やられたしね……)


 リリアンヌは最大限に自分の見た目を生かした微笑みを浮かべる。


「わぁ! 私の顔が良いだなんて……、そんなの知ってますよぉ。だって、控えめに言っても私って可愛いですもん。

 ベルリンは美人系、私が可愛い系でこの学園でトップだと思うんですよね。そう思いませんか? ローレル様、アイリーンさん、レバンテさん」


 クスクスと笑いながらリリアンヌは一人一人と目を合わせながら言う。そして、怒りで顔を真っ赤に染めた彼女らの脇をすり抜け、大きな声で愛しい人を呼ぶ。


「ゼン!! いるんでしょ? 抱っこして!!」


 ついてこないで欲しいと言いながらも、いると思ってしまう。そんな自分の面倒くささにリリアンヌは苦笑する。

 だが、そんなリリアンヌを愛する男はちょうど死角になっていた角から現れると、リリアンヌを抱えて走り出す。


「よく分かったな」

「何となくだけどね。この状況で、ゼンは私を一人にはしないと思って」


 楽しそうに笑うリリアンヌを抱えたまま、ローゼンもクツクツと喉を鳴らす。


 ローゼンは令嬢達から見えないところまで、あっという間に走り抜け、理事長室の前でリリアンヌをそっと下ろした。


 


 

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