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サイズを知らないと、こうなるよね。


 週明けの朝、制服の件が両親にバレないようにと、鞄を前に抱えて家を出たリリアンヌは玄関先で待っていたローゼンの姿に足を止めた。


 たった2日の休みの間にリリアンヌとローゼンは婚約をしたため、リリアンヌは何だか照れ臭くて頬を染める。


 (恋人と婚約者って、何だか違うわよね。緊張する)


 片手で前髪を直すと、リリアンヌはとびきりの笑顔を浮かべた。


「ローゼン様、おはようございます」

「……おはよう」

「待っててくれたんですか?」


 そう問えば、ローゼンから無言で手渡された紙袋の中には真新しい制服が入っている。


「……どうして」

「迷惑だったか?」


 その言葉に、リリアンヌは黙って首を横に振る。心遣いが嬉しくて、心配をかけたことが申し訳なくて、自分の力ではどうにもできなかったことが悔しくて、心のなかはぐちゃぐちゃだ。


「……ぁりがとう」


 耳を澄まさなければ聞こえないような小さな声に、ローゼンは優しくリリアンヌの頭へと手を置く。


「着替えたら、一緒に行こう」


 それに頷くとリリアンヌは一度着替えに家へと戻る。そして──。



 ガチャリと玄関を開けて着替えたリリアンヌが出てきた。その肩は小刻みに震えている。


「何かあったのか!?」


 慌てて近寄ったローゼンだったが、気まずそうに視線を()らす。


「いえ。そりゃ、こうなるよな……と。ぶふっ……ふふっ……ふふふ……」

「すまない。……笑っていいぞ」

「いや……、用意してく……れたの……に、悪いじゃない……で……すかぁ……。あははははははは……」


 真新しい制服のブレザーの袖はリリアンヌの手をすっぽりと隠し、スカートは膝下ではあるものの、ちょうどふくらはぎの真ん中くらいまでと規定よりも明らかに長い。ウェストも大きかったのだが、ベルトで止めてある。

 まさに、制服に着られているかのような状態だ。


 (制服をもらった時、まさかサイズが合っていないとは思わなかったなぁ。いやでも、漫画やドラマでもあるまいし、ピッタリな方が気持ち悪いかぁ)


 サイズを聞かなくてもピッタリなものを贈りそうな人物が一名、頭を過ったリリアンヌは項垂(うなだ)れているローゼンの不器用さを好ましく思う。



「ローゼン様。これは学園のお店で購入されたんですか?」

「あぁ。そうだが」

「それなら、一緒に行きませんか? もうやってるはずですから」


 学園内のお店は生徒が登校し始める頃に開き、下校時刻を過ぎると閉まる。生徒が学園生活を送る上で必要なものが揃う、生徒のためのお店だ。そのため、休日はやっていない。

 だから、ローゼンはリリアンヌを送り届けた後に、態々(わざわざ)戻って制服を購入した。


 そのことを着替えてから気が付いたリリアンヌは、悔しさよりも嬉しさが勝った。

 ローゼンにエスコートしてもらい乗った馬車の中でも、長い袖をパタパタと振りながら、頬が緩みっぱなしである。


「フォーカス嬢……」


 困り顔のローゼンにリリアンヌはギュッと抱きつく。


「ローゼン様、私のためにありがとうございます」

「……何のことだ?」


 リリアンヌの背中に腕を回しながらもローゼンが尋ねれば、上から見たリリアンヌの耳が赤く染まっている。


「わざわざ、学園に戻ってくれたんでしょ? それが嬉しくて……」


 抱きつく力を少し強めたリリアンヌは、ローゼンの腕の中で幸せを噛みしめる。


 (俺は、フォーカス嬢のこういうところが……)


 そんなリリアンヌにローゼンの瞳は熱を帯びる。



「俺も、リリーと呼んでも?」

梨理(リリ)って呼んで欲しいです」

「リリ……」

「はい、ローゼン様」


「俺のことも、ゼンと」

「ゼン?」


 名を呼びながら見上げたリリアンヌとローゼンの視線が交わる。そして、静かに唇が重なった。





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