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イザベル、替え玉だと思われる


 一方その頃、イザベルはメイルード男爵令嬢に謝罪をしようとしたら、逃げられていた。


「メイルードさん、お待ちになって」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。許してください。追いかけてこないでー」


 (謝りたいのは、われの方じゃ。なぜ逃げる!?)


 リリアンヌ制服ペンキ事件の実行役であるメイルード男爵令嬢は、そのことでイザベルが自身のところに来たのだと思い、捕まりたくない一心で廊下を走っていた。

 だが、イザベルの足が速いために徐々に差は縮まり、今にも追い付かれてしまいそうだ。


「許してください! 仕方なかったんですー!!」


 半泣きで叫びながら逃げるメイルードだったが、遂にイザベルに捕まった。肩で息をするメイルードに対してイザベルは息の一つも乱してはいない。


「謝罪をしたいのは、私の方ですわ」

「そっ、そんなことを言って、私を油断させる計画ですね」


 目に涙を溜めて言うメイルードに、イザベルは首を傾げた。


「いえ。以前、メイルードさんに紅茶を頭からかけたお詫びをしたいと思って、声をかけさせて頂いたんですわ。

 今更、謝って許されることではないですが、本当にごめんなさい。傷など残ってないかしら……」


 イザベルが頭を下げたことで、メイルードはやっと警戒を解いた。


「あなたも大変ですね」

「……えっ?」

「イザベル様の代わりに謝罪だなんて……」


 メイルードの同情を含んだ声に、自身が替え玉だと思われている可能性にイザベルはやっと気が付いた。


「代わりだなんて。私は本物のイザベル・マッカートでしてよ」


 本物だと主張すればするほど、メイルードに「大丈夫です」「分かってますから」とイザベルは言われてしまう。


「立場が弱いと逆らえないですものね。

 イザベル様がなぜ謝罪をしなくてはならない状況なのか私には分かりませんが、謝罪を受け取った旨と、私の方こそすみませんでした、と伝えてください」

「メイルードさんは、何に謝ってるんですの?」


 謝る必要など何もないメイルードが、何故、イザベルに謝っているのか。

 もしかしたら、謝ることが(かえ)って相手への負担になっているのではないか。


 (謝罪は、われの自己満足なんじゃろうか……。

 悪いことをしたら謝る。それが当然のことじゃと思っていだが、配慮が足りなかったのかもしれぬ)


 身分が高い者の謝罪を受け取らない以外の選択肢がないことを、イザベルは今になって気が付く。


 (むしろ、謝罪させたことを謝らねばならぬと思わせたんじゃなかろうか)


 イザベルは悩んだが、メイルードの謝罪の意味は別のところにあった。


「私、イザベル様が怒ると分かっていて深紅のドレスを着ていったんです。イザベル様が私に危害を加えることで、評判を更に落とされるようにするために」

「なぜ? メイルードさんは、ルイス様をお慕いしていらっしゃるの? それとも、私に恨みでもあったのかしら」


 メイルードは、替え玉にも関わらず、本物のように振る舞おうとする姿に瞳を潤ませた。


 (替え玉なのはバレバレなのに、イザベル様にここまでしてなりきろうとするのには、きっと深い理由があるんだわ。オカメさん、可哀想……)


 すっかり同情したメイルードは、オカメイザベルを仲間認定した。命令に逆らえない弱者なのだと。


「イザベル様に恨みなんてありません。それに、ルイス様をお慕いするなんて(おそ)れ多い。尊敬はしていますが、恋情を持ったことなど一度もないですよ」

「それでは、何故?」


 イザベルの疑問に視線をさ迷わせた後、メイルードはぼそぼそと話始めた。もう彼女は限界だった。他者を害する命令をされることに。そして、それを拒否できずに実行する自分自身に。



 話を聞き終えたイザベルは、メイルードの腕をとりサロンへと向かう。


「どこに向かってるんですか?」

「私だけではなく、皆の知恵を借りて解決すべきですわ。金銭的な問題ではありますが、どこかに依存し続けるのは得策とは言えませんもの」


 皆、と聞いてメイルードは腕を引かれて歩いていた足を止めた。


「私、行けません」

「えっ? でも、このままでは利用される一方ですわよ」

「それでも、行けないんです」


 はっきりとした拒絶にイザベルはメイルードを見詰めた。先程までの友好的な雰囲気はなく、耐えるようにメイルードは瞳を閉じた。


「私が、フォーカスさんの制服をやったんです」


 耳を澄まさなければ聞こえないような声で告げられた言葉に、イザベルはオカメの下で目を見開いた。


「だから、私は行けません」


 罰せられるのを待つかのように、メイルードは動かなかった。そして、その手を再びイザベルが引っ張る。


「それなら、(なお)のこと行くべきですわ。私のようにならないためにも」


 メイルードは、顔をあげられないままイザベルに連れられてサロンへと向かった。




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