イザベルVSリリアンヌ2
リリアンヌは思わず笑いそうなのを堪え、心配そうな表情をつくる。
「あの、イザベル様……。その……オカメをつけている理由って、もしかしてお顔に傷ができてしまったんじゃ……」
震える声でリリアンヌは聞いた。
貴族の令嬢にとって、顔の傷は致命的だ。
ましてや、家格と顔だけが取り柄とされているイザベルならば、致命的どころか今後の社交に大きな影を落とし、ルイスに婚約破棄をされてもおかしくない。
「ご心配、痛み入りますわ。ですが、これは趣味ですので、顔に傷の一つもありませんので安心なさって」
(傷はないが、オニみたいな顔じゃがな)
心のなかで付け足しつつ、イザベルはオカメの面を撫でる。
「でも……。やっぱり心配なので、お顔を見せてもらえませんか?
あの場にいたからこそ、自分の目で確認できないと安心できなくて……」
(オカメなんか趣味なわけないでしょ。そんなんで誤魔化せると思ったら大間違いよ!! 絶対にオカメを外してやるから!!)
潤んだ瞳でリリアンヌはイザベルを見詰めるが、オカメで顔が隠されていて表情が分からず感情が読み取りにくい。
だが、イザベルが扇を出して口元を隠したことで何かがくるとリリアンヌは身構えた。
「貴女、きちんと教育を受けてこられましたの? 身分が上の相手が大丈夫だと言うのにしつこく迫るのはマナー違反でしてよ。
そのような姿をさらすなんて、一族の恥になりますわよ」
周りに聞こえないように囁かれた言葉。リリアンヌは羞恥でカッと顔を染めた。
その様子をイザベルは冷めた目で見ていたが、幸いにもオカメのお陰で気が付く者は一人を除いていない。
「遅れての入学になったので、先生方にご挨拶に行かねばなりませんの。急ぎのようでなければ、失礼しますわ」
今度は周りに聞こえるように言ったイザベルが隣を通りすぎようとした瞬間──。
「キャッッ」
リリアンヌは尻餅をついた。
「リリー!!」
「リリちゃん、大丈夫ぅ?」
「リリアンヌさん、お怪我はありませんか?」
「いくら気に入らないからってわざとリリアンヌにぶつかるなよ。
イザベル、お前は本当に嫌な女だな。さっき謝ったのも注目を浴びたいからか何かなんだろ」
驚きの目をイザベルに向けたリリアンヌに取り巻きーズは駆け寄り、再び険悪な雰囲気へと変わる。
「メイス様、私はぶつかってなどいませんわ」
「リリアンヌが一人で転んだって言うのか!? そんなわけな──」
「メイス、いいのよ。私が勝手に転んじゃったの。
イザベル様、お急ぎのところ本当にごめんなさい」
(ヒロインの私に恥をかかせるから、こうなるのよ!!)
メイスの言葉を遮り、少し声を震わせて笑えば、誰もがイザベルに疑いの目を向けた。
(全く面倒じゃのう……)
イザベルはうんざりとした。もう無視してしまおうかと考えた時、ルイスがイザベルの前へと出た。
「イザベル、もういいだろうか」
「えっ? あっ……はい」
リリアンヌを心配する気持ちよりも面倒臭さが勝った瞬間だった。
こうして、戦いはイザベルVSリリアンヌから、ルイスVSリリアンヌと取り巻きーズへと変わったのである。




