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イザベルVSリリアンヌ1


 そして、イザベルは会話の誘導をはじめた。



「貴女の何が悪かったのか……。私にはよく分からないので、教えてもらえませんか?」


 自分を責めるイザベルを想像していたリリアンヌは動揺し、全く違うイザベルの反応に心のなかで舌打ちをした。


 (何なの!? イザベルったらいきなりどうしちゃったわけ?

 しかも、オカメなんて被っちゃって。これじゃあ悪役というより変人だし。

 悪役令嬢は悪役令嬢らしく、ヒロインの私に嫌がらせしてくんないと困るんだけど!!)


 それでも、悲しげな表情を作ったままリリアンヌは(しゃべ)る。



「私が赤いドレスを着たから嫌だったんですよね……。本当にごめんなさい!!」

「……どうして、赤いドレスを着ると私が嫌だと?」

「だって、イザベル様の色だから……」


「だから貴女は悪くもないのに、私に謝ってくれるのですか?」

「でも、イザベル様は嫌だったんですよね? そしたらやっぱり私が……」


「なら、貴女は知っていたのですか? 私が嫌だと癇癪(かんしゃく)を起こすと知っていて(わざ)と深紅のドレスを?」

「そんな! そんなことするわけないです。イザベル様、ひど──」


「そうですよね。貴女がそんなことするわけないわ。ならば、やはり私の癇癪ですわ……」

「えっ!?」


「勝手に深紅を私の色だとしてしまった私が悪いんですわ。それなのに貴女にジュースをかけ、あまつさえ破片といえどガラスを向けるだなんて……」

「ちょっ……待っ……」


「謝って許されることだとは思っていませんわ。それでも、謝罪をさせてくださいませ」


「待っ……待って──」


「リリアンヌ・フォーカスさん、本当にごめんなさい」


 イザベルはスッと躊躇(ためら)いもせず頭を下げた。そんなイザベルにリリアンヌは慌てるが、もう遅い。



 自身にとって都合の悪い言葉を言われる前に言葉を被せて言わせないイザベルの独壇場(どくだんじょう)だったのだ。

 リリアンヌはただイザベルのシナリオに沿って踊らされただけ。



 リリアンヌにとって、この状況は最悪だった。

 リリアンヌは被害者といえどジュースに濡れただけで、イザベルは事故とはいえ階段から落ちて一月の間休んでいたのだ。

 イザベルの方が重症だったことは明らかだ。


 それに、公爵令嬢に公衆(こうしゅう)面前(めんぜん)で頭を下げさせるなんて、いくら相手がイザベルとはいえ外聞(がいぶん)が悪い。



 (ちょっと待ちなさいよ!! 何でこうなるわけ!? 私が謝らせたみたいじゃん!! 私は悪役令嬢にいじめられてる可哀想なヒロインなのよ!?

 これじゃあ、イザベルが心を入れ替えた演出に私が使われたみたいになっちゃうでしょ!!)



 そんなリリアンヌの気持ちを知る由もない取り巻きーズは更にリリアンヌを窮地(きゅうち)へと追いやることとなる。


 カミン、ヒューラック、メイスの3人はニヤリと笑い、イザベルを責め始めたのだ。



「やっと自分の悪さに気づいたのぉ? 遅いんじゃないー?」

「それは、マッカート公爵家からの謝罪でしょうか? 貴女個人の謝罪なんて意味がないんですよ」

「そもそも、本当に反省してんの? 誠意が見えないんだけど」



 (うわっ! こいつらバカなの? ここでそんなこと言ったら、ただでさえイザベルが優勢なのに、こっちが悪役になっちゃうじゃん! もう!! どうしてくれんのよっ!!

 何か、何か考えないと…………。


 …………あっ、そうだ!!

 ここで私がイザベルを(かば)えば、めっちゃ心優しいヒロインじゃん。ルイスとの好感度も急上昇!?

 私って、天才~♪)



「皆、そんなこと言っちゃダメだよ。イザベル様だって反省してるんだし、可哀想だよ!!」


 リリアンヌは自分が優しいヒロインに見えるような言葉を選んだ。

 だが、リリアンヌの選んだ言葉は、一見イザベルを擁護(ようご)したように見えるだけ。

 心はこもっていないし、自分が優位な立場に立ってイイ人ぶっているだけのものでしかない。


 けれど、3人は「優しい」「天使」などとリリアンヌを褒めちぎったので、リリアンヌは上手くいったと確信した。



 そんななか、ずっと黙っていたシュナイが口を開いた。

 

(あやま)ちは誰にでもあります。大切なのは、これからをどうなさるかですよ、イザベル様。

 頑張ってください。その頑張りは必ず貴女のためになります」

「はい。ありがとうございます、シュナイ様」


 イザベルのお礼にシュナイは他の取り巻きーズとは違い、笑顔で応じている。


 そもそも、シュナイはリリアンヌの味方ではあるものの、決してイザベルを敵視していない。

 彼にとってリリアンヌが特別なのは間違いないが、だからといって他者を(おとし)める理由にはならないのだ。

 


 そんなシュナイにリリアンヌは不満だった。


 (やっぱ、シュナイは無しかな。何でイザベルなんかに笑いかけるかなぁ……。

 そもそも、神官長の養子ってことは実の子じゃないし、神殿って堅苦しくて絶対贅沢(ぜいたく)できないよね。

 何よりさー、特別扱いされてる感があんまないんだよね。顔はいいからキープはするけど、本当に顔だけって感じ。


 ホント、シュナイのせいでテンション下がるわぁ。なんか上手いことイザベルを()められないかな。


 ……いいこと考えた。私ってば、可愛いうえに頭いいー!!)



 リリアンヌが悪巧(わるだく)みをするなか、イザベルは概ね予想通りの展開になったことにオカメの下で満足げに笑っていた。




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