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イザベル、鞄に忍ばせる


 階段から落ちて記憶を取り戻してから早一月。イザベルは今日から少し遅れて学園へと通う。


 制服に袖を通して、ミーアにネクタイを結んでもらう。

 白のシャツに濃紺のブレザー、チェックのプリーツスカート、ストライプのネクタイ。シンプルなものだが、イザベルの素材の良さを際立たせていた。



「うぅぅ……。丈が短すぎるわ……」

「大丈夫ですよ。むしろ、これ以上長くすると変に目立ちますよ」


 膝が隠れるくらいのスカート丈にイザベルは既に半泣きだが、ミーアはこの一月でそんなイザベルにすっかり慣れ、軽くあしらっている。


「さぁ、イザベル様! 髪も結ってしまいましょう」


 イザベルの瞳と同じ翡翠色のりぼんを手に、器用にりぼんとイザベルの髪を一緒に編み込んでいき、サイドに三つ編みを一つ垂らした。


「できましたよ。今日も世界一、お綺麗です」


 鏡越しのミーアと目があったイザベルはちょっと困ったように微笑んだ。


 (ミーアは優しいのう。われが容姿を気にしているからと何時も褒めてくれる)


 ミーアとしては事実を述べているだけなのに、一月経とうと全くと言って良いほど伝わっていない。

 そんなイザベル、自身のことはオニだ何だと心のなかで騒ぐものの、他者には驚くほど寛容だ。


 ミーアの茶髪・茶眼を受け入れたのは良いとして、父の金髪・碧眼、母の赤っぽい茶髪・翡翠色の瞳に怯える様子はない。

 そして、ルイスの銀髪・紫眼に関しては神秘的な瞳だと思っている。


 本当になぜ? と聞きたくなるくらいに、自分の容姿だけを受け入れられないのだ。

 前世と今世の美意識の違いを理解できるようになったものの、自分のことになると、急に前世優位の考え方になる。


 それは前世で無理矢理、輪廻転生の輪に魂を戻し、縁を結ばれた影響で、前世(本来)の姿ではなくなった自分自身を異質に感じ、本能的に怖いと感じさせていることが要因なのだが、当然そんなことを本人は知る(よし)もない。



 本人が卑下しようが、今日もパーフェクトに美しいイザベルは性格も穏やかになったことで、今や非の打ち所のないご令嬢だ。


 しかし、その姿を見られるのは公爵邸のみ。そんな彼女の鞄の中には、ミーアが知れば没収されるであろう秘密兵器が隠されているのだ。



 イザベルは大事に鞄を抱えて馬車へと乗り込む。すると、ミーアが執事から何かを受け取り、イザベルへと差し出した。


「イザベル様、お手紙が届いたそうです」


 渡された2通の送り主は、ルイスと兄のユナイ。

 イザベルは、ルイスの手紙を膝に乗せ、兄からの手紙を急いで開けようとした。


「イザベル様、先に皇太子殿下のお手紙をご覧になられてはいかがでしょうか?すぐに学園でお会いするのに、早朝に届いたのですから急用の可能性もございます」

「……そうよね。ありがとう、ミーア」


 兄に手紙を出しておよそ一月。待ち望んでいた手紙はずしりと重い。

 それに目を通している間に学園へ到着してしまうだろう。


 イザベルがルイスの手紙に手をかけたのを確認し、ミーアは頭を下げる。



「いってらっしゃいませ。お帰りをお待ちしております」

「えぇ。行ってくるわね」


 小さく微笑み手を振るイザベルに、周囲を見回してからミーアは小さく振り返す。

 その姿にイザベルは破顔(はがん)したのだった。




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