イザベル、許しを乞われる
自身が見えない力でルイスに囚われているなど知る由もないイザベルは、安定の乙女を爆発させていた。心の中で。
(ふわぁぁぁぁ! 手を! 手を!!
無理じゃ、駄目じゃ。これはどうすれば良い?
うぁっっ!!うぁぁぁぁ……)
優しく薬指の爪を撫で続けるルイスに、イザベルはただただ体を固くして小さく震えながら耐えた。……というか、どうすれば良いのか分からずに固まっていた。
そんなイザベルの様子をにこにこと眺めながら、拒絶がないことをいいことに、ルイスは堪能する。
「イザベル、具合はどう?」
「…………」
何度かルイスは話しかけたが、イザベルは微動だにしない。
そんなイザベルの右手にルイスは手を伸ばす。
「えっ!?」
「包帯は取れたんだね。痕にならないといいけど……」
イザベルは顔を隠していた扇を取られ、手の平を確認される。
そこには入学祝賀パーティーの時にグラスの破片を握ってできた傷があった。
ルイスは痛ましげに傷を見た後、ゆっくりとイザベルに視線を合わせた。その瞳には驚きで目を見開いたイザベルが映っていた。
「ダメっっ!!」
イザベルは咄嗟に空いていた左手で顔を隠した。
(見られたっっ!! 見られてしもうた。われの顔を!!)
見た目が全てではない。イザベルもそのことを頭では理解していた。
しかし、イザベルは今までの美しさを急に失ったように感じており、まだ自身の容貌を受け入れられなかった。
「お願い……見ないで……」
顔を隠したままイザベルは俯いた。少しでも顔を見られたくなかった。
声は震え、視界は歪む。
(あぁ、われは何て醜い。見目のみならず、心までも。
許嫁を辞めたいと望むなら、このオニのような姿を見せればよい。なのに、嫌悪の視線を向けられるのを恐れておる)
イザベルは自身を恥じ、更に体を縮こませた。ルイスが恍惚とした視線を向けているとも気が付かないで。
(はぁ……、小夜。君の震えた声が聞けるなんて。前は最期の時ですら毅然としていた。そんな小夜も美しかったけれど、弱々しい姿もまた……。
……何がなんでも、顔が見たいな。この愛らしい姿を網膜に焼き付けたい)
ルイスは困惑したような表情を作り、イザベルが顔を隠した方の手もとった。
「離して……」
「どうして? やっぱり俺が許せない?
イザベルを守れなかったから? それとも、別の令嬢の味方をしたように見えた?」
言われた通り手を離したルイスは、許しを乞うようにイザベルの足許に膝をつき、下からイザベルを見る。
「イザベル、俺が悪かった。許してくれないか?」
許しを乞うことで、ルイスはイザベルの表情が一番見やすくなるであろうポジションへと違和感なく移動し、再び手を取る。
そして、その手を無理に引っ張ることはせずに自らが近付き、おでことおでこを合わせた。
「お願いだ。顔を見せてくれないか」
内心は涙目のイザベルを見たいという煩悩に溢れているが、それを全く表に出すことなく乞うような声でルイスは言った。




