94.自由に
異世界の屋敷、地下室にて。
万里ばあさんから真実を打ち明けられた。
ばあさんは世界の均衡を守るために、生きてるふりしていると。
魂だけの存在となって、この屋敷にとどまっていると。
そして……俺が世界を守っているって。
「どういうこと?」
「あー……」
少し考えたあと、万里ばあさんは言う。
「今の無し♡」
「おい」
「まー、ともかくカイト……じゃなかった、界人。あんたは自由に生きなさい。難しいこと考えないで」
いやさっきの世界を守って云々かんぬん言って、難しいこと考えるなって……。
「界人には、裏の事情なんてあんまり知らなくていい。そういう面倒なのはあたしや、公安に任せときゃいい」
……さっきの世界が守ってどうのってのが、まじで気になる。
なんなんだ……?
まあ、気にするなってんだったら、あんまり気にしないでおくけどさ。
「じゃあ、ばあさんはここから出られないし、物理的な干渉をすることができないんだな」
「そうさな」
「じゃああのテレビとかは?」
部屋の片隅にテレビがおいてある。
ヒーロー番組が放映されていた。
「あたしの走狗が見た記憶をもとに、魔力で作ったコピー品さね」
「走狗……」
「影武者のこと。世界には思ったよりたくさんいるのさ、あたしの影武者が」
万里ばあちゃんは悪い能力者達をいかくするため、生きてるふりをしてる。
影武者……走狗を使って。
「そこまでして生きてることを演出しないといけないなんて大変だな」
「そうでもないよ。前にも言ったろ? あたしは、界人。大好きなあんたがいる、このもう一つの世界を守りたいのさ」
……ふと疑問に思ったことがある。
婆さんは、いつからこの状態なのだろうかと。
俺の記憶の中にいるしわしわばばあの万里ばあさんは、走狗なのかな。
つい最近、この幽霊状態になったとは考えにくいし……。
「界人。だから、あんまり難しく考えるな。ばばあはいつも、あんたのそばにいる。そんだけだよ。今までと、なーんも変わらん。おまえは、現実と異世界とを自由に行き来し、自由に生きればいい」
……まあ、そう言ってもらえると気が楽になるな。
俺に世界は救えないし、ましてや神になんて……あ。
「神で思い出した。なあ婆さん、俺の状況ってどこまで把握してる?」
「長野で神になって、異世界で勇者の師匠やってる」
ほぼ全部把握なされてる……!
「あたしはこっからでれないけど、走狗を通して世界中に目を光らせてるんだよん♪ あんたのことももちろん追っかけてるさ」
「な、なるほど……」
じゃあ説明の手間が省けるな。
「なあ婆さん、たとえばなんだけど……」
俺は万里ばあさんから【とあること】を教えてもらう。
なるほど、これがあれば……。
「さんきゅーばあさん」
「なんのなんの。また聞きたいことがあったら、いつでもおいで。あたし、基本暇してるからさ」
ひらひらと手を振るばあさん。
ちょいちょい来てたラインの相手は、走狗のばあさんだったらしい。
現物のばあさんと会うためには、この異世界にある秘密の部屋に来る必要があるんだとさ。
ここへの来方はもうわかった。
また何かあればここに来よう。
【★☆新連載スタート!】
先日の短編が好評のため、新連載はじめました!
タイトルは――
『伝説の鍛冶師は無自覚に伝説を作りまくる~弟に婚約者と店を奪われた俺、技を磨く旅に出る。実は副業で勇者の聖剣や町の結界をメンテする仕事も楽々こなしてたと、今更気づいて土下座されても戻りません』
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