93.祖母の真実
「実はあたし、死んでるんだ」
……異世界の、ばあちゃん屋敷にて。
地下に謎の部屋を発見。
そこには、半透明の姿をした、俺の祖母、飯山万里ばあちゃんがいた。
「は……? 死んでるって……」
「文字通り、飯山万里は死んでるの」
8畳の部屋に、俺たちがいる。
ちゃぶ台に古めかしいテレビ。
テレビの前で、フェリとイージスが座って番組を見ている。
『まじか? まじで? まじか? しょうたーいむ!』
「おい犬、なんだこれは?」
「向こうの世界のテレビ番組だ」
「テレビ……すごい……」
食い入るように見てる二人。
おまえら……気にならないのか?
目の前に半透明のばあさんがいて、死んでるっていうんだぞ……?
俺はばあさんのほうが気になってた。
「でも、前にさ。なんか幼女のばあさんいただろ?」
だいぶ前、俺が東京で仕事を辞めて長野に来た。
そこで色々あったあと、幼女のばあさんから説明を受けた。
で、その幼女は言っていた。
飯山万里は世界魔女って異名があって、世界の均衡を保つために働いてると。
そして一度死んで、転生の魔法を使って生まれ変わったと。
「ああ、あれ嘘」
「は? 嘘?」
「そう。あれは、飯山万里の偽物さ」
……いまいち、理解できなかった。
フェリ達は『しゃばでゅびたっちへんしーん』とテレビの中のヒーローのマネをしていた。
のんきすぎるだろおまえら……。
「偽物って?」
「ま、あれだ。影武者ってやつ」
「影武者……なんでそんなもん必要なんだよ?」
「そりゃ……あたしが世界の平和を守ってるからね」
……たしか、ばあさんは世界中に影響力を持つ、すごい魔女だって言っていた。
「あたしがいるから、世界中の犯罪者……まあ練能力者ね。活動を自粛してたのさ」
「強いから?」
「そのとおり。けど……見ての通り死んじまってね。さて問題だ界人。そんな凄い魔女が死んだって、悪い練能力者たちが知ったら、どう思う?」
どうってそりゃ……。
「目障りなやつがいなくなってラッキー……? あ……」
なんとなく、言いたいことがわかった。
「そう、世界魔女が急にいなくなると、世界の均衡が崩れるのさ。あの目障りな魔女がいない、好きに暴れ回ってやる……ってね」
……だから、生きてるふりをするために、影武者を用意していたのか。
「幼女魔女は、じゃあばあさんの影武者……別人だったってこと?」
「そのとおり。でも影武者たちだけじゃ、いずれバレちまう。だから、あたしが影武者たちに指示を出してるのさ。こっからね」
それがこの部屋なのか……。
「てか、なんなのこの部屋?」
「神域さ」
「しんいき……?」
「特別に清められた神聖なる領域のこと。この場にいれば、魂が天へ召されることはないのさ」
天……か。
そうだよな。万里ばあちゃんも人間だ。
死ぬことも、あるよな。
でもこの神域のなかなら、死んでも魂は居残る。
「じゃあ……ばあさんは、世界の平和のために、魂だけの存在になってもなお、現世にとどまってるのか」
なんだか物悲しいわ。
死にたくても死ねないなんて。
世界の平和のために、死んだ後も、死ねないなんてな。
不憫だぜ。
「いや、違うけど?」
「ちがうんかーーーーーーーい!」
なんだよ!
俺の同情をかえせよ!
「まあ落ち着きなさい界人。たしかにね、ついこないだまで、あたしはあんたが言っていた、世界平和のために死んだ後も活動していた。でも……今は違うんだ」
「どういうこった?」
テレビの前でイージスとフェリが、へそに手を当ててた。
なんだそのポーズ。
「界人、あんたのおかげだよ」
「俺? なんかやったか?」
「ああ。あんた……というか、異次元者のおかげさ」
は?
なにそれ……。
「ついこないだまではね、世界魔女って存在が世界を守っていた。でも今は……界人。あんたが世界を守ってる」
シャバデュビタッチヘンシーン……。
シャバデュビタッチヘンシーン……。
背後で、ヒーロー番組の音が響く。
そして、俺は言う。
「いや、守ってませんけど?」
【★☆新連載スタート!】
先日の短編が好評のため、新連載はじめました!
タイトルは――
『伝説の鍛冶師は無自覚に伝説を作りまくる~弟に婚約者と店を奪われた俺、技を磨く旅に出る。実は副業で勇者の聖剣や町の結界をメンテする仕事も楽々こなしてたと、今更気づいて土下座されても戻りません』
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