92.賢者の秘密の部屋
俺がブレイバ君を助けた、その日。
異世界にて。
ばあさんの屋敷の庭でバーベキューしてるときのことだった。
「おい」
「あん? なんだイージス」
エルフ姫奴隷の、イージスが俺を呼ぶ。
「妙な部屋が見付かったぞ」
「妙な部屋ぁ……?」
……こっちでも面倒ごとの予感が。
逃げたい。
しかし時限爆弾的なものだったらいやだ。
しかたない、面倒ごとは先に片しておくか。
「いくぞフェリ」
「ぬぅ……もぐもぐ……吾輩は忙しいのであるが……もぐもぐ……」
「それ持ったままで良いからついてこい」
魔法がありゃ、まあなんとかなるだろけど。
念のためにフェリを連れていく。
「じゃあイージス、案内してくれ」
こくんとうなずいて、イージスを先頭にして歩く。
婆さんの屋敷は2階建てだ。
玄関ホールに吹き抜けの階段がある。
入って正面に、羽の生えたライオンの像が置いてある。
婆さんの趣味だろうってことで、そんなに気にしていなかった。
「妾はこのライオンの像を掃除しようとしていたのじゃ。くぼみを見つけての」
「くぼみ?」
たしかにライオンの像の根元には、3つの穴が空いていた。
「何かハメるのであるか?」
「たしかに、メダル的なものをはめ込むとこがあるな」
うなずいて、イージスが俺にメダルを3枚差し出す。
「これどこで見つけたの?」
「部屋の中にあったのじゃ。無駄にパズル的な手順を踏まされたがの」
部屋の中に隠してあったってことか……。
「メダルに絵が描いてあるのである」
「鷹、虎、蝗虫のメダルじゃ」
わーお、大丈夫なのそれ?
「あとはこれを順にはめていく。すると……」
ライオンの像がゴゴゴ、と震動しながら動く。
像が回転すると、地下へと向かう螺旋階段が出現した。
「て、手が込んでる……」
一体誰が作ったんだ? と思ったがまあばあさんだろうな。
ここ、ばあさんの屋敷だし。
フェリが階段を見下ろしながら言う。
「おい下僕。妙な部屋とはここのことか?」
「階段下った先にあるのじゃ」
イージスと共に俺たちは階段を下っていく。
そこは地下室となっていた。
四方をレンガの壁で覆われている。
正面には、たしかに妙な扉があった。
「ドアノブが無いな」
正面のレンガの壁には、扉の絵が描かれている。
しかしドアノブがどこにも見当たらない。
「これでは中にはいれぬではないか?」
「そうじゃ。だからこうして、ぬしを呼んだのじゃ」
ふぅむ……なるほどなぁ。
「魔法で壊すのではないか?」
「妾が既に試みた。しかし……」
スッ、とイージスが手を前に突き出す。
炎の玉が手のひらから出現した。
しかし次の瞬間、火が消えたのである。
「あー……あれか。反魔法か」
「そうじゃ。ここの部屋に反魔法の術式が組み込まれておる。この部屋で魔法は使えぬ」
となると、物理的手段でこの壁を壊せってことか。
「吾輩がやってみるか」
フェリがフェンリルの姿になる。
そして、勢いよく壁に突進した……。
ずぶぶぶ……。
「吸い込まれた?」
と思ったら背後からフェリが現れて、イージスを勢いよく突き飛ばした。
「どわ……!」
ふたりがぶつかって、地面に転がる。
「何をするのじゃ犬ぅ!」
『すまぬすまぬ。しかしわかったぞ。これはどうやら、空間魔法がかけられてるようだな』
フェリがドアノブの壁に顔をツッコむ。
すると背後から、フェリの顔が出てきた。
なるほど、ワープするようになってるんだな。
「魔法でも駄目、物理攻撃でもだめ……か」
『お手上げだなぁ』
確かにこりゃ無理だな。
……いや、待てよ。
「なんとかできるかも」
『おお、ほんとうか?』
俺はアイテムボックスから、適当な剣を取り出す。
「ばあさんのとこにあった、適当な剣」
「な、なにが適当な剣じゃ。それは、神器ではないか……!」
神器?
「神の力を宿したアイテムじゃ! たしか、使い手を選ぶときいたことがある」
「え、普通に持てるけど?」
「……ぬしが普通だったことあるのかの?」
まあこっちの常識未だによくわからないからな。
「まああとは、ここに【付与】」
魔力で性能を強化する、付与魔法をかける。
「そんで……ていや」
俺はあんまり気合いを入れずに壁をずばん! と斬る。
ワープ壁が……切断された。
「空間の魔法がかかってるなら、剣で魔法ぶった切ればなんとかなるかなって」
「そ、そんなやりかたで突破するなんて……すごい……」
イージスがまさか感心してくれるとは。
ぶち破った先には扉がある。
今度はドアノブがちゃんとついていた。
俺はそれを開けてみる。
すると……。
『タ・ト・バ! タトバ! タトバ!』
「あはは! おんもしろ~♪」
……そこは、妙な空間だった。
八畳ほどの和室。
古めかしいテレビがあって……。
その前には、半透明の幽霊がいた。
「幽霊……? いや、違う……」
肘をついてテレビを見ている人に、俺は見覚えがあった。
しわしわの肌に、黒い髪。
それは紛れもなく……。
「ま、万里ばあちゃん……? なにやってるの、こんなとこで……?」
俺の祖母、飯山万里さんが、半透明の体のままで、そこにいたのだった。
【★☆新連載スタート!】
先日の短編が好評のため、新連載はじめました!
タイトルは――
『伝説の鍛冶師は無自覚に伝説を作りまくる~弟に婚約者と店を奪われた俺、技を磨く旅に出る。実は副業で勇者の聖剣や町の結界をメンテする仕事も楽々こなしてたと、今更気づいて土下座されても戻りません』
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