90.弟子ピンチ
万里ばあさんの屋敷の庭で、肉を焼いてスローライフしてる俺。
「いやぁ、いいわー。のんびりしてて。このまま何も起きないといいなぁ」
と、そのときだった。
ビービービービー!!!!!
「うぉ!? な、なんだぁ?」
「む? ふぉーふぃふぁ? 主ひふぉ??」
フェリが肉をもっちゃもっちゃ食いながら尋ねてくる。
「いや……なんか頭の中で、アラームが鳴ってさ……」
「む? アラームとな?」
その瞬間、俺の目の前に世界扉が開く。
いつもの人一人通れる扉じゃない。
「小窓……かな」
「ふむ? なぜ世界扉が開いたのだろうかの?」
俺とフェリが窓を覗く。
そこは……ダンジョンのようだ。
『くそ! 強い……! なんて強さだー!』
窓に写っていたのは……見覚えのある少年。
「勇者ブレイバくんじゃん……」
彼は勇者くん。
なんか知らないうちに知り合いになって、その後、俺のこと勝手にマスターとか呼ぶようになった。
ちょっと思い込みの強い男の子だ。
「勇者小僧はダンジョンで狩りをしてるようだのぅ」
「てゆーか、なんでブレイバ君の姿が映ってるんだ? しかも、アラームも……」
むぅ、とフェリがうなったあとに言う。
「あ、わかったぞ。主よ、どうやら主従契約を結んでいるようだ」
「はぁ……? 主従契約……って、俺とフェリと結んでるそれか?」
「うむ。そのとおり。あやつと主の間には、霊的な経路、パスがつながれておるの」
フェリは俺の下僕になると、自分から言って、契約を結んだ。
しかし……。
「俺は別にブレイバくんと契約をむすんでないぞ?」
「ほれ、見てみろ。勇者小僧の装備品を」
装備品?
あ……。
勇者君は俺が作った防具を身につけていた。
彼が元々持っていた防具類は、俺が勝負の商品としてもらい、換金しちゃったのだ。
なんか申し訳なくなって、俺は剣道で使っていた防具を改造し、彼に届けるよう商人に頼んでおいたのである。
「どうやら主からあの小僧に防具を与えたことで、契約が完了されたようだ」
「ええー……じゃあ、俺が勇者君のご主人様ってこと?」
「うむ。そして主従契約を結ぶと、下僕のピンチを主人が感知できるようになるのだ」
まじかい……。
じゃああのアラームは、勇者君(下僕)がピンチだからなったってこと?
『くそ! 硬い! なんて硬いんだ! このドラゴンの鱗!』
『ギャォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
勇者君はダンジョンの中で、肌が岩でできたドラゴンと戦っていた。
しかし剣が何度もはじかれている。
「どう見ても攻撃がきいてない……」
「して、どうする主よ? 状況は理解しただろう?」
つまりなんか勝手に勇者君と俺は、契約が結ばれている。
勇者君は俺の下僕。
で、下僕の彼がピンチな状況になってるのを……俺は世界扉で見ている。
「どうって……別に。なんでドラゴンと戦ってるのか知らないけど、俺には無関係だろう……って、あ、ああー!?」
「なんだどうした?」
しまった……そうだ。
俺は……勇者君の防具、カツアゲしたんだ(結果的に)。
俺の防具を与えたけど……。
本来の、勇者の防具ではない。
「…………」
これでブレイバ君が死んでみろ?
死因が、勇者の防具が無かったからってなってみろ?
誰のせいで死んだことになる?
「俺じゃん……くそ!」
俺が彼から勇者の防具をまきあげなければ、死ななかったのに……ってなるじゃん。
ああもう、しょうがねえなぁ!
岩ドラゴンがブレイバ君を襲おうとする。
「【火球】!」
俺は世界扉から、魔法を発動させる。
デカい火の玉が岩ドラゴンに激突し、爆発四散する。
「ふぅ……」
「おお、主よ。どうした、あの小僧を助けて」
「いや……まあ、だってこれで死んだりしたら、俺のせいになるじゃん……」
年下の子から勇者の防具をまきあげたあげく、相手を殺してしまったなんてなったら。
俺の心の平穏が、崩されてしまう。
「だから仕方なくだよ……」
「ふっふっふ、またツンデレ乙じゃな」
「いや今回のはマジで仕方なくだよ……」
すると上空を、ブレイバ君が見上げてきた。
「『あ!』」
やべ。
俺は窓を閉じた。
隣で、フェリがニヤニヤ笑っていた。
「弟子のピンチを影ながら助けるなんて、いい師匠じゃあないか、のぅ主?」
「おまえ……わかっててからかってるだろ……はぁ……」
【★☆新連載スタート!】
先日の短編が好評のため、新連載はじめました!
タイトルは――
『伝説の鍛冶師は無自覚に伝説を作りまくる~弟に婚約者と店を奪われた俺、技を磨く旅に出る。実は副業で勇者の聖剣や町の結界をメンテする仕事も楽々こなしてたと、今更気づいて土下座されても戻りません』
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