09.スライム、テイムしてみた
俺、飯山界人は、ある日異世界を行き来する力を得る。
ひょんなことから、JK2名と同居することになった。
同居決定の翌日。
「うひょぉおおおおおおおおおお! マジ異世界ぃいいいいい!」
場所は、万里ばあさんが所有している、異世界の館。
武器とかアイテムとかが無造作におかれてる、物置。
それを見て驚いているのは、眼鏡の美少女、南木曽なぎ。
18歳の天才漫画家だ。
かつて俺はこの子の担当編集をしていた。
なぎは俺が編集部を辞めたことで、彼女もまた出版社を出てきたらしい。
帰った方が良いに決まってる。なぎの漫画を楽しみにしてる人もいるんだから、と説得したのだが、彼女は意思を曲げようとしなかった。
俺のそばに居たいから、という色っぽい理由……らしい。それともう一つ。
「うっは! やばいっすよ! この剣! ぜってー名剣っすね! エクスカリバーとか? うっハーーーーー! ちょーすげーい!」
とまあこの子は人一倍、好奇心が強い子なのだ。
編集時代は、この子のワガママ(取材とか資料探しとか)に振り回されたもんだ。
「界人サン界人サン! 魔法! うち、魔法覚えたいっすー!」
「魔法か。じゃあこっちだな」
ちなみに、麗子は現実に残っている。
どうやらなぎと違って、麗子は別に異世界に興味ないらしい。
フェリと一緒に、女性用の下着を買いに行ってもらっている。
世界扉でショッピングモールまで送っていって、夕方迎えに行く手はずだ。
さて、やってきたのは書庫。
ここには、万里ばあさんが残した、秘伝の魔導書がある。
「これは読めば魔法がたちどころに覚えられるっていう、すごい本だ」
「うぉお! テンションあがるっすー! さっそく読むっす!」
なぎはその場にしゃがみ込んで、分厚い魔導書を手に取る。
まあすぐ覚えられるだろう。
俺もペラペラーっとめくって、1分も経たずに覚え切れたし……。
「う、うう? うう~……」
「ん? どうした、なぎ?」
「か、界人サン……これ、めちゃ難しくないっすか?」
え、何を言ってるんだ?
「簡単だろ。パラパラめくってけばいいんだし」
「そ、そもそもうち、この本の文字、読めねーっすわ」
「なんと……まじか」
魔導書を手に取ってみる。確かに、異世界の文字で書かれてはいる。
だが不思議なことに、俺が読もうって意識を持つと、本が読めるのだ。
なんでだ?
ピコン♪
「ん? ラインっすか?」
「……ああ。ばあさんからだ」
スマホを(そういやなぜスマホが異世界で通じるんだ?)取り出し、そこにはばあさんからのメッセ。
【界人が異世界の文字を読めるのは、異世界人のまれびとの称号を持ってるからだからだよん♪】
まじか。まれびとの称号にそんな効果が……。
あれ? でもなぎも、世界扉をくぐってきたんだから、異世界のまれびとの称号持ちじゃないのか?
ぴこん♪
【世界扉の所有者に贈られる称号だからねん♪ なぎちゃんはあくまで、まれびとである界人の付き添いだから、称号はないのさ♪】
つまるところ、まれびとは世界扉の持ち主である、俺だけってことか。
成長補正に加えて、読み書きまでできるなんて……。
「あれ? てことは、異世界の言葉も……もしかして……なぎは話せない?」
【その通りだねん♪ だから、街へ一人で行かせないこと。付き添ってあげるんだよん♪】
あ、あぶねえ……街へ行く前に知ってて良かった。
さんきゅーばあさん。
【こっちこそ、栗ようかんと栗粉餅ごちそうさん♡ 次は朴葉巻きがいいな】
朴葉巻きとは、これまた南信のおかしで、餅を朴葉で包んだおかしだ。まあ柏餅みたいなもんだ。
ばあさんからのありがたいアドバイスがもらえるんだったら、おかしくらい、買うぜ。
「なぎ、ちょっといいか?」
俺はばあさんから聞いた情報を、なぎに共有する。
「まじっすか~……。こういうときって、最初から異世界語の読み書き、おしゃべりはできるもんじゃないの~……がっくし」
「すまん、そういうことらしいんだ」
「てか、うらやましいっす! 努力せずとも異世界の言葉を自在に使えるなんて! チートっす、チーターっすよ!」
チーター? 動物か……?
俺は人間なんだが……。
「うう、魔法~……。しかたねーっす、異世界の言葉、のんびり覚えるっす」
「努力家だなおまえ」
「うぃ! うち、障害は大きい方が、燃えるんで!」
なぎはその場にしゃがみ込んで、魔導書を適当に手に取る。
どうやら言葉を、独学で覚えるらしい。すごい根性だ。
「俺、ちょっと外見てきて良いか」
「いいっすよ~。うちここで読書してるんで!」
「館とその周りはバリア張ってて、魔物は入ってこないから安心してくれ」
「了解っす。じゃ、バリアの外にはでないようにするっす~」
さて。
俺は館を出てみることにした。
そう、前から気になっていたんだよな、この館の周りが、どうなっているかが。
異世界にこれるようになってから、まだ館の中の探索しかしてなかったし。
どういう感じになってるのか、興味はあったんだ。
……まあ、もっとも外にはモンスターがうろついてて、怖かったってのもあるが。
今は竜王ぶったおして、レベル9999という、最強の存在になった。
外に出るのも怖くなくなったから、出てみようと思う。
「で、周りは森っと……」
ばあさんの館は森の中に存在している。
周りを見渡しても、うっそうとした木々が生い茂っているばかりだ。
「そういや、ここってどういう森なんだ? フェンリルとか、竜王とか、普通にうろついてたんだけど……」
異世界ってみんなそんな物騒なんだろうか。
この世界の常識を知ってるフェリは、今向こうにいるし……帰ったら聞いてみよう。
バリアの外に出ても、俺は平然と出歩けている。
多分スキル【明鏡止水】のおかげだろう。精神を穏やかに保つこのスキルと、身につけたレベル9999の力があるから、まあ何が出てきても大丈夫だろうって冷静に思えるんだ。
と、そのときだ。
「きゅー」
「ん? あれは……スライム?」
俺の前に、一匹のスライムが現れた。
おお、スライムだ。ゲームとかに出てくる水色のあれだ。
今までドラゴンとかフェンリルとか、やばいモンスターばっかりだったから、ほっこりするな。
「きゅ、きゅー♡」
ぴょん、とスライムが俺のもとへ飛び込んできた。
俺はボールのように受け止める。
【スキル《毒耐性》を獲得しました】
は? 毒耐性……スキルだと?
なんで? 今このタイミングで?
「きゅ、きゅー?」
俺の胸の中にいるスライムが困惑していた。
……いや、待て。スライムの身体の色、なんかさっきと違うぞ。
今は、毒々しい紫色になってるし……まさか!
「か、【鑑定】」
暴食王(SSS)。古竜1000匹を一瞬で食べつくす無尽の食欲を持つ。食べた相手の能力を奪い、己の力と変えて、あらゆる攻撃をしかけてくる、最強のスライム。
「き、君やばいスライムだったのね……」
「きゅ~……」
たぶん毒のスキルをこいつは使ってたんだ。で、触れた俺を毒で殺して、食べる作戦だったのだろう。
「かわいい顔してなんつーエグいことを。倒させてもらう……」
「きゅ~……」
「たお……」
「きゅ~……」
……半泣きになってるスライムを、殺すのは、ちょっとなぁ……。
「おまえ、もう悪さしない?」
「きゅ!」
「よし、じゃあ逃がしてやろう」
俺は暴食王を下ろしてやる。まあかわいそうだったからな。
「きゅ、きゅ~♪」
逃がしてやった暴食王が、俺の足にくっついて、すりすりしてきた。
「おまえ……もしかして、仲間になりたいのか?」
「きゅー!」
【称号《調教師》を獲得しました】
「調教師?」
鑑定結果によると、どうやら特定のモンスターを、支配下に置くことができるようになったらしい。
テイムしたモンスターには、自分の力を分け与え、逆にテイムしたモンスターの能力を使えるようになるらしい。
暴食王をテイムしたことで、俺はスキル《暴食》を獲得した。
暴食(SSS);倒したモンスターの能力を奪う。奪えば無限に能力をストックできる。
「げ、激やば能力じゃないっすか」
「きゅ!」
この子、かわいい見た目して、やばいわ。
「じゃ、帰りますかね。そろそろフェリたち迎えにいかないとだし」
俺は暴食王を肩に乗っけた状態で帰る。
館に入って、なぎのもとへ。
「おかりーっす。って、それ! それ! それぇええええええええ!」
なぎがドタバタと駆け寄ってくる。
「なんだよ?」
「スライム! ほぉわああ! スライムだ! ファンタジー生物きたー!」
どうやらフェンリルに続いて、ファンタジー的生き物を見て、興奮しているらしい。
「すげー! なんすかこの子?」
「暴食王ってスライム。俺がテイムしてきた」
「テイム! うぉー! 定番っすねえ! かわよ~っす!」
なぎはスライムをぎゅーっと抱きしめる。
……なぎも、結構胸がでかい。す、スライムが3つも……いかんいかん。
「言語の習得ほうはどうだ?」
「さっぱりっすね。こりゃ時間かかりそうっす。便利な翻訳アイテムとかあればいいんすけど」
ぴこん♪
困ったときに、万里ばあさん。
【たしか館の中に、異世界の言葉を翻訳してくれる眼鏡があったよん♪】
まじか。どこにあるんだ?
【どっか♪】
……あ、アバウトすぎる。
しかし物置のなかの、どっかにはあるみたいだ。
俺たちは物置を見渡すも……。
「この大量のなかから、一個ずつ調べるのは、骨が折れそうだな……ん? まてよ……」
「きゅー?」
暴食王、テイム能力。そして……。
「いけるかもしれない」
俺は魔導書をあさる。その中には【無属性魔法】の魔導書もあった。
「なんすか、無属性魔法って」
「火とか水とか、そういうの以外の魔法なんだって。種類は多いんだそうだ」
「へー、で? 無属性魔法の何を覚えるんすか?」
「えっと……これだ。【分身】の魔法」
俺はまた、ペラペラと魔導書をめくる。
【分身魔法を習得しました】
「よし、覚えた」
「はや!!! え、うちが数時間かけて、全然読めすらしなかった本を、たった1分もかからず読み終えちゃうなんて……す、すげえっす界人サン!」
俺はスライムにまず、分身魔法を使う。
ぽぽぽぽーん! と暴食王がその場にたくさん出現する。
「うぉ! 分身って文字通り、増やすことができるすね」
「ああ、ほんとなら術者、つまり俺自身にじゃないと使えない魔法なんだが、テイムモンスターには術者の能力を共有できるんだよ」
そして、暴食王を増やし、さらに、【鑑定】スキルを付与する。
「暴食王。このたくさんのアイテムのなかから、翻訳の眼鏡を探し出してくれ」
「「「キュー!」」」
増えたスライムたちがあちこちに散らばる。
スライムは自分の意思で、アイテムを探し、そして鑑定して、捜索を続ける。
「なるほど、スライムに調べさせるんすね。で、分身で数を増やし、探す手間を減らすと! すごいっす!」
分身したスライムが目当ての眼鏡を探し出した。
翻訳眼鏡(SSS):かけるとあらゆる言語を読めるようになる
俺はなぎに眼鏡を渡す。
「うおー! すげー! 魔導書読めるっすー! ありがとう、界人サン! さっすがーっす!」