89.異世界でスローライフしてる?
俺は異世界に来ている。
森の中の洋館。
庭でイージスに肉を焼いてもらう。
俺は現実で買ったキャンプチェアに座ってぼうっとしてる。
「あー……」
「おい、焼けたぞ」
「おー……」
イージスが肉を切って紙皿にもってくれる。
俺は受け取ろうとする前に……。
イージスが箸で肉を摘まみ、俺の口元へ持ってきている。
「え? イージスさん?」
「か、勘違いするな。奴隷は奉仕するように、魔法がかかってるのだ」
「へー……そう。じゃあ、お願い」
俺が口を開ける。
イージスは、実に不愉快そうに顔をゆがめる。
そんなに嫌なのか……。
まあ別にいいか。
現実の連中、特に天導教会のやつらと違って、こいつは俺を神扱いしない。
なんかどうにも好きになれないんだよね、公安も、殺し屋も、あと天導教会のやつらも。
神、神、神ってさ……。
俺は神じゃないっつーの。
その点イージスは、まあ俺のこと嫌ってはいるけど、人間として扱ってくれる。
「もぐもぐ……いいわー……」
「優雅なものだな」
フェリが俺のもとへやってくる。
風呂上がりらしく、薄着だった。
フェリは鉄板の上の肉を、まるごと口の中に放り込む。
「あ! 貴様! それは妾が今焼いておったのだぞ!」
「かかか! 良いではないか。主の物は下僕のもの。下僕のものは吾輩の物!」
言い合う二人をよそに、俺はぼーっとする。
あー……なんだろうなぁこれ。
「異世界の方が、のんびりしてるなぁ、最近」
現実は神だのなんだのってうるさいし、わずらわしい。
公安だの殺し屋だのってな。
でもこっちには知り合いも何もいないし……。
「あれ、異世界の方がのんびりできる……のか?」