84.壺売ってる怪しげな教祖を成敗
ある日のこと。現実にて。
俺の家に、来客があった。
客間にて。
二人組だ。ひとりは、ガマガエルみたいな見た目のおっさん。
もう一人は、スーツを着た冷たい目をした女。
「これはこれははじめましてぇ。ワタクシ、【権堂】と申します。こっちは秘書の【県】ともうします」
「……県です」
散歩から帰ってきたら、屋敷の前をうろついていたのだ。
なんか怪しげな雰囲気をしてるんだが……。
まあどういう用事かわからなかったし、いきなりむげに返すのもね。
「実は飯山さまに共同事業の、ご提案をと思いましてぇ」
「はぁ……共同事業……?」
なんだ、やぶからぼうに。
すると県さんが近づいてきて、俺にレジュメを渡してきた。
レジュメのタイトルに、なんか知らない名前が書いてあった。
「【天導教会】……?」
「おやぁ、ご存じないですかぁ?」
「いや、さっぱり」
すると後ろに控えていたフェリが、スッ……と立ち上がる。
「どうした、フェリ?」
「ちと、【虫】が」
「むし?」
「離席するぞ。後は主に任せる」
そう言ってフェリが出て行った。なんなんだ……?
虫なんていただろうか。
「で、天導教会がなんだって?」
「全国各地で活動しております、ま、早い話が新興宗教団体ですね」
「はぁ……宗教……」
なんかきな臭くなってきたな……。
カルト教団じゃね? これ。
「わたくし権堂めは、天導教会 長野支部で支部教祖を務めております」
「具体的になにしてるの?」
「神のお言葉を、悩める若き乙女達に届けております」
……ま、ますますきな臭い……。
やばいな。早々にお帰りいただきたい。
「若き乙女たちの悩みをきき、神の力を以って解決に導く。その際に少々のお布施をもらっており、それを活動費として使っているのです」
カルト教団じゃねぇか……。
「悪いけどそういうのに興味ないし、入る気もないので、帰ってください」
「おまちください飯山様……いや、山神様」
……こいつ。
今、山神って言いやがったか?
「安曇野の病院の奇跡、大変見事なものでございました。このわたくし、驚嘆いたしました!」
「……ああ、ニュースで大げさに報じてるなぁ。それと俺とどういう関係が?」
めんどうなので知らんぷりしとこ。
しかし、権堂はにやりと笑う。
「ごまかさずとも、よろしいですよ。わたくしめも、【あちら側】の人間ですゆえ」
……あちら側。異世界のことをいってるのか、この権堂のおっさん。
俺を山神だと断定した=あの力が異世界のものだと知ってる。
そして、あちら側、とこいつはいった。
つまり、こいつも練能力者(※逆異世界転生者)ってことだ。
「しかし、山神さまほどの強い能力はもっておらぬのです……。とはいえ、この力は、現実の連中から見れば、神の奇跡に見えてしまう」
「…………」
このおっさん、能力を使って神の奇跡を偽装し、だまして、お金をむしり取ってやがるってことか……。
なんつー、おっさんだよ。やべえな。まじで関わりたくない。
「お察しの通り、神などおりませぬ。ですが人は弱い。弱い彼女たちの心のよりどころは必要なのです。……そこで、あなた様には、神になってもらいたいのです」
やっと本題に入ったか。
神になってほしいだ?
「どういうことだ?」
「奇跡の技を持つ山神様を、わが教会に迎え入れたいと思っております」
「…………」
「ああ、ご安心を。能力を使わなくていいです」
「は? 力を使わなくてイイだって……?」
ええ、と権堂が笑う。
「県、説明を」
「……はい。レジュメをおめくりください。5pです」
……正直とっとと帰ってほしいんだが。
何をさせたいのか、未知のまま帰らせるのも気持ち悪いしな。
俺はレジュメをめくる。
「壺……?」
「はい。壺です。そこに、飯山さまの字で、【山神】と書いてもらう。それだけでいいです!」
「はぁ……壺をどうすんだよ」
「売るんです。大金で」
「…………」
なんか、どっかで聞いたな。
壺を、大金で買ったって……。
「山神様のネームバリューがあれば! ただの壺が神のアイテムに早変わり! これさえ買えばどんな怪我病気もなおる! 神の道具! ということで、1個100万……いや、500万はくだらない! 儲けは折半でどうでしょう?」
……なるほど。
よく、わかった。
つまりあれだ。
俺の名前を利用して、こいつらは教団で壺を売ろうとしてるんだ。
で、金をむしり取ろうと。
「あんたらさ。このビジネスって前からやってる?」
「ええ、やっております。1個50万円で売っておりました。しかし、山神様がお力をかしてくれれば、500万円でも……いや、1000万円でも……!」
「もういい、わかった」
よくわかった、よーーーーーくわかった。
こいつらが……救いようのないクズだってこと。
そして……。
「なああんたらさ、たっくんって知ってるか?」
「は……? た、たっくん……?」
権堂が首をかしげる。県は「平田 たくみくんのことでしょう。事故で足が動けなくなった子」
「ああ! おりましたなぁ!」
「……たっくんの母親に、壺を高く売りつけたのは、あんたか?」
「え、ええ……」
はい。ギルティ。
「どうでしょう、飯山さま。適当に壺に名前を書いて、なにもしなくて250万……いや、500万! とてもいい商売だとは思いますがねぇ……」
「【風鎚】」
俺は無詠唱で、初級風属性魔法を発動させた。
ゴッ……! と権堂の土手っ腹に風のハンマーが、凄まじい勢いでぶつかる。
「ぶぎゃぁああああああああああああああああああああああああああ!」
権堂のおっさんは窓を壊して、庭にふっとんでいく。
県は目を丸くしている。
俺は庭に向かう。
「げほ……! ごほ……こ、このガキぃ! いきなりなにするんだぁ!」
さっきまでの気味悪いしゃべりかたをやめて、怒鳴りつけてくる権堂。
これが素なんだろうな。むなくそわりい。
「業務提供だったっけ? 悪いが力を貸す気はない」
「なぜだ!? 良い商売だろう!? 貴様も、安曇野で奇跡を起こしたのは、金儲けのためだったんだろう!?」
はぁ……?
なんだそりゃ。どうしてそうなる?
「大きな奇跡を起こして、あとでカルト教団を立ち上げるつもりだったんだろう!? ええ!?」
「いや違うけど」
「うそをつくな……げほげほ! ゴホッ……!」
ああ、そうか。
このおっさん、根本的に勘違いしてるのか。
「俺は別に、金が欲しくてやったわけじゃあないよ」
「なにぃ!? うそつけ! 異世界の力を、金儲けに使わないなんておかしいだろう!?」
まあ……そこは全面的に否定はしないけど。
俺だって、異世界を行き来して、金を儲けてるけども。
でも、相手をだますような……悪事に使うことは絶対しない。
「なんとでも言えばいいさ。でも俺はあんたとは違う。俺はあんたに力は貸さない。それと……俺はあんたらを潰すことにした」
「なにぃ!? なぜ潰す!?」
「あんたは、知り合いをだまして、金をむしりとったからだよ」
別に、俺は正義のヒーローじゃない。
世界中の弱い人たちを守る気もさらさらない。
ただ。
ちょっとでも関わった相手に、ひどいことしやがる。こいつが……ゆるせないだけだ。
「たっくんと、たっくんママに代わって。あんたを成敗するよ」
「ふ、ふん! ガキが! 下手にでりゃいい気になりやがって! 後悔するなよ!」
権堂のおっさんが携帯電話を取り出す。
「この電話はなぁ! 練能力者の殺し屋と繋がってる! 貴様は今、そいつに命を狙われてるのさ!」
「ほー」
「こ、殺せと命じれば今すぐにでも貴様を殺すぞ!」
「へー。やってみれば?」
どんな能力使ってくるか知らねえけど。
「や、やれ! ころせえ!」
しーん……。
「な、なぜだぁ! どうなってる!? おい殺し屋ぁ! なにをやってるんだぁあああ!?」
そのときだった。
「あるじよー」
「フェリ」
ずっとどっかいっていた、フェリが、空から降りてきた。
米俵みたいに、何かを背負ってる。
「なんだそれ?」
「虫」
どさっ。
「なっ!? こ、殺し屋ぁ!?」
権堂が驚愕している。
ああ、フェリが言っていた虫って、こいつが連れてきた殺し屋のことだったのか。
「視線がうざったかったからな。気絶させてきた」
「ごくろうさん。……さて」
俺は権堂のおっさんをにらみつける。
「ひ、ひぃいいいい! すみません! おたすけくださいぃいいいいい!」
権堂がその場で土下座する。
「あんたも練能力者なんだろ? 攻撃してみろよ」
「うそです! うそなんですぅ! わたくしには、何の力もないんですぅううううううううううううううう!」
ああ、なるほど。
能力者を傍らにおいてて、力を使わせてたのか。
こいつ自身には、力が無いのに。力があるように演出してたわけね。
くだらねー。
「命を狙うようなマネをして申し訳ありませんでした! お赦しください!」
「やだよ。おまえは、むかつくやつだ。女の子をだまし、たっくんママもだまして、私腹を肥やす。クソ野郎に、情けはかけん」
別にヒーローきどってるわけじゃない。
心の平穏を保つためだ。
たっくんママがだまされたことを知ってしまった。
それを知ったまま、元凶を放置するのは、俺の平穏を乱す行為だ。
だから、俺がやる。
「おねがいしますおゆるしくださぃいいいいいいいいいいいいい!」
「だまれ。【【落雷】】」
俺は相手を麻痺させる魔法を使う。
指先から出た一筋の電撃が、権堂を襲う。
びくんっ、と体を硬直させると、その場で倒れた。
俺は治癒魔法をかけてやる。
「い、いきてる……なんで……?」
「いいか権堂。よーくきけ」
俺は彼の前でしゃがみ込む。
完全にびびっていた。しょんべんもらしてやがる。きたねえ。
「おまえは、嘘つきだ。今までだましていたことを全員に謝罪しろ。そんで、だまし取った金は全額返金。しかるのちに、警察に出頭しろ。いいな?」
「……は、はひ……」
「よし。おまえのことはずっと監視してる。いいか、ずっとだぞ。俺が今言ったことを実践しなかったら……もっとひどいことになるからな?」
「ひぎぃいいいいいいいいいいいい!」
白目を剥いて、仰向けに倒れた。
「ま、嘘だけどね」
なんでおっさんのことを四六時中見張らないといけねえんだよ。
ま、こんだけ脅しておけば、大丈夫か。
「おい県さんよ。こいつ連れて帰れ」
「はい、わかりました。飯山様」
あっさりとうなずいて、県さんは権堂をひょいっと持ち上げる。
……女の割に、力あるなこいつ。
「お見事でした、さすが、山神様。やはり、本物は違います」
「は?」
「失礼します。いずれ、また」
「はぁ……?」
県はさっさと帰っていった。
「これにて一件落着、かのぉ」
「ま、そうだな」
「しかし悪を成敗だなんて、時代劇みたいだったなぁ、主よ」
「うっせ。別に俺はこんな目立つことやりたくねーっつの」
ただ、たっくんママがちょっと不憫だっただけだ。
「ふふふ、主はツンデレだのぉ」
「だからちがうって。はーやれやれ。もう二度と、あの変な連中とは関わらないぞ」
「さて、どうかな……?」
え? フェリ? どうかなって……?
「あの女は本物を知ってしまったからなぁ」
「? ??」
「ま、続きはまたのお楽しみってやつじゃな」