81.うっかり車椅子の子を歩けるようにしてしまう
ある日のこと。
現実にて。
俺は家の近くの公道を、フェンリルのフェリと一緒に散歩していた。
田舎みちなので、地面は舗装されておらず、ボコボコしてる。
『こっちの世界もなかなか空気がおいしいな』
「まあ、ここは長野の山奥のほうだしな。都会の方行くと排ガスでやばいぞ」
なぜ散歩してるのか。
フェリが『外を歩いてみたいな』と言い出したからだ。
まあ、いろいろあって、結構考えに詰まってたんだよな。
気分転換になるかとおもって、こうして散歩に出かけた次第だ。
「はあ……田舎最高。ひとり最高。何も無いって、いいもんだな」
『ふむ、そうか?』
「そうだよ。俺はのんびり暮らしたいんだよ。誰に何も縛られたくもないの」
『最初からひとりの吾輩には、よくわからん悩みだな』
群れで生活してるとおもったんだが、フェリは違うらしい。じゃあわからないか。
「殺し屋だの公安だの神だの……うんざりなんだよ。現実でも異世界でも、いろいろ面倒に巻き込まれてさ。俺はひとりで、静かに暮らしたいのに……」
と、そのときである。
『ふむ、手遅れだな』
「え?」
『ほれ』
前を見ると、そこには、車椅子に乗ってる子供がいた。
あ、や、やべ……!
子供の後ろには、母親がいて、めっちゃびっくりしていた!
ですよね! こんな馬鹿でっかい犬がいたらな!
「に、にげ……」
「すごおおおいい! くそでかわんこだぁあああ!!!!」
車椅子の少年は、こちらに向かって走り出す。
車輪を手で回しながら、すごい勢いでやってきた。
「待ちなさい! たっくん!」
車椅子少年はたっくんというみたいだ。
母親が後ろから追いかけてくる。だが、たっくんはフェリに触りたくてしょうがないのか、かなりの速さで車輪を回す。
俺は悪いと思いながらも、逃げようとした。だってあきらかに、面倒ごとに巻き込まれるだろ? こんなフィクション的な馬鹿でかい犬、どう説明しろっていうんだ……。
と、そのときだった。
がしゃんっ!
「いったぁああい!」
少年は車椅子から投げ出されて、ころんでしまった。
やべえ。俺のせいだ!
「だ、大丈夫かい、君……?」
俺は子供の下へ近づく。フェリがこっそり『逃げなくていいのか?』と聞いてくる。
「……できるわけないだろ、俺のせいで転んじゃったんだから」
このままほっといて帰ったら、寝覚め悪すぎだろ。しかも子供なんだし相手……。
俺はたっくんのそばに寄る。
「ああ、膝小僧すりむいてるな。ひー……」
……いや、治癒魔法つかっていいのか?
あんまり大騒ぎされたくないんだけど、バレるのは……。いや、あほか。
子供を見てみろ。痛そうに、目に涙を浮かべてるだろ?
うん、相手は子供だ。擦り傷がたとえなおっても、気のせいだと思ってくれるだろう……。
そう思って、治癒魔法を使おうとしたのだが……。
「あれ? おひざ痛いのなおっちゃった!」
「ええー……な、なんでぇ~?」
なんで? 治癒魔法つかってないよ俺?
『くくく、どうやら無自覚に魔法を使っていたようだな』
フェリがテレパシーを飛ばしてくる。主従契約を結ぶと、こういうことができるらしい。
無自覚に魔法……?
『ほれ、前にあったろう? ただの動作が、魔法になると』
高い魔法適性の人間は、普通の動作しただけで魔法になるって言っていたな。
でも動作すらしてないんだけど……。
『治したい、と念じた。その動作が魔法となったのだ』
「魔法の名前すら念じなくても魔法が出るとか……」
どうなってんだよ、俺……。
ま、まあいいか……。膝の傷を治しただけだし……。
「じゃ、じゃあな少年」
「あ、まってわんわん! わんわん触りたいい!」
俺はダッシュでフェリと逃げる。
子供には悪いけど、これ以上厄介ごとは勘弁してほしいんだよ。
「大丈夫……たっくん……え!? た、たっくん!? あ、あなた……立ってない!?」
「え、あ! ほ、ほんとだ! 立てる! おかあさんぼく立てるよぉ!」
「すごいわ! 奇跡! どうしてこんなことが……」
「さっきのお兄ちゃんが触ってくれたら、立てるようになった!」
……なんか親子が、後ろで話していた。でも距離があって聞こえなかったな。
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