73.停止者VS異次元者(決着)
「はぁ! はぁ! はぁ! なんだ! なんなんだよぉおおおおおおおお!」
長野の山奥を、必死になって逃げる人物がいた。
それは先ほど、ダミーを使って逃げおおせた、変身者……。
……ではない。
彼を下した喪服の女……レートSの練能力者、停止者だ。
「ありえない! なんだあいつは! どうなってるんだよぉお!」
停止者は、逃げていた。敗走していた。そう、負けたのだ。
誰に?
……異次元者。
つまり、飯山界人にである。
経緯を話そう。
彼女は自身の能力を使い、誰にも気づかれることなく、異次元者の家に潜入する……はずだった。
しかし、入って一瞬で、異次元者とばったり出くわしたのだ。
「嘘だ! こんなの夢だ! ありえないんだぁ……! きゃあ……!」
停止者はかわいらしい声を上げて蹴躓く。
彼女は顔面から地面に倒れる。
「いっつぅ~……」
「大丈夫か?」
「ああ、だいじょ……お、あああああああああああああああ!?」
停止者の表情が恐怖に染まる。
手を差し伸べてきたのは……。
自分が、逃げてきた相手。
界人……異次元者だった。
「なんで!? なんであんたがここにいんだよ!? 完全に撒いたはずだろぉ!?」
界人は不思議そうな顔をして首をかしげた。
……いや違う、と停止者は首を振る。
あれは、自分を見下しているのだ。
レートSなんぞ、レートSSSの自分にとっちゃザコだと。
怒りが、恐怖を塗りつぶす。己を鼓舞して、再び能力を発動させた。
「くそがぁ……!」
停止者は指を鳴らす。その瞬間、世界は静止した。
彼女……停止者の能力は、時間を停止させる。
この世界に存在する、あらゆるものの時間を止める……はずだった。
「怪我してないか?」
「なんでうごけるんだよぉおおおおおおおおおおおおおおお!?」
界人は平然としゃべりかけてきた。さっきもそうだ。
時間を停止させ、屋敷の中に入ったはずだった。
ドアを開けると、そこには界人が立っていたのだ。
「どうして!? なんで、なんでええええええ!?」
「ちょ、落ち着けよ君。どうしたの?」
……なぜ界人に能力が効いていないのか。
簡単な理屈だった。
世界魔女ラブマリィのもとで、魔導書を読んだ界人は、無数の魔法を身につけている。
その中の一つに、【反魔法】というものがある。
魔法を無効化する魔法だ。
練能力者……つまり逆異世界転生者の異能力は、スキル、あるいは魔法のいずれかが元になっている。
停止者の能力は、時間停止という、異世界に存在する古代魔法のひとつだ。
だが、魔法であれば、反魔法が通じる。
さらに界人は、彼の動作全てに魔法が宿る。
界人は、【魔法攻撃を受ける】という外部からの刺激に対するリアクション動作として、無自覚に【反魔法】を発動させたのだ。
結果、世界の時間を止められても、界人は普通に動いていられるのだ。
だが停止者からすれば、そんな理屈は知らない(※界人も知らない)。
自分だけの世界で、他者が動いているというイレギュラーを前に、停止者は恐怖するしかなかった。
無敵の能力があるからこそ、停止者は不遜な態度を取っていられた。最強と自称できるほどの自信があった。
けれど、その自信が打ち砕かれ……。
「あ……」
ショックのあまり、停止者は気を失い、そして……失禁したのだった。
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