72.停止者VS変身者
界人の命を狙う、組織の殺し屋にして、練能力者、停止者。
喪服を着た女は、松本駅からタクシーで山の中へと向かう。
「遠っ! 遠すぎでしょ。つか電車がなんで通ってないんだよ。そんなとこ日本に存在するのかよ! ったく」
JR松本駅からタクシーで一時間した、山の中。
停止者は、界人の所有する山へと近づこうとした……そのときだ。
「隠れてないで出てきなよ、公安の刑事さん」
山の中にある電柱を見据えながら、停止者が余裕の表情で声を張り上げる。
懐からナイフを取り出して、放り投げる。
高速で飛翔するナイフが電柱に突き刺さる。
すると、電柱だった物がぐにゃりと姿を変え、人間の形になる。
「……くっ! ばれたか」
白髪にサングラスの、トレンチコート男。
贄川 無一郎。
コードネームは、変身者。
「レートA程度の練能力者が、アタシになんのよう?」
練能力者……能力を自覚的に使用できる、逆異世界転生者。
彼らには強さ、能力の希少度に応じて、等級分けがされている。
レートAは、精鋭ともいえる猛者である。
事実、変身者の能力は強いのだ。
あらゆるものに、質量を無視して、ノーリスクで変身できる。
変身者が化けている電柱と気づかなかったら、今頃、停止者は攻撃を受けて死んでいただろう。
しかし、それを見破れる。だからこそ……。
「レートS、練能力者の実力か……」
「ザコは引っ込んでなよ。用があるのは、この山の中にいる異次元者だけだからさ」
「……そうは、いかないね」
変身者は拳銃を取り出して構える。
「さすが刑事さん。日本で唯一拳銃を持てる職業、楽で良いよね。暴力を持ち歩いててもとがめられないんだもん」
拳銃を向けられてるというのに、停止者は余裕の表情を崩さない。
一方で変身者は額に汗をかいていた。
この女の能力は、能力がわかっていたとしても、止められない。
コードネーム持ちは、全員その能力を、公安に押さえられている。
だが、能力を知っているだけでは、彼女は止められない。
「撃ってごらんよ。覚悟があるならね」
「…………」
「おまわりさんは大変だ。一般市民の身に危険が及ぶとわかっているなら、守らないといけないんだから。たとえ……襲おうとしてるのがライオンだとしてもね」
変身者は、一発、空に向けて空砲を鳴らす。
「どこ狙ってんの?」
「君には関係ない。実力を、行使させてもらう!」
彼は引き金を引く。高速で飛来する弾丸……。
「無駄なんだよ、無駄無駄」
ぱちん、と停止者が指を鳴らす。
……その次の瞬間。
「ごはぁ……!!!!」
変身者は、膝をついて倒れる。
体中には銃弾の痕が見受けられた。
「ざっこ。レートAじゃ、所詮そんなもんか」
停止者は、倒れている変身者から拳銃を奪い取る。
「これはもらっておくよ。刑事さん。始末書は……書かなくて良いね」
停止者は倒れ伏す、変身者……贄川無一郎を、一瞥することなく去っていく。
……だから、気づかなかった。
無一郎の身体が、ぐにゃり……と変化し、髪の毛になったことに。
身代わりであったことに、敵は気づかなかったのである。
【★読者の皆様へ お願いがあります】
ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります!
現時点でも構いませんので、
ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると嬉しいです!
お好きな★を入れてください!
よろしくお願いします!