70.分断者の引退、停止者《ストッパー》の参戦
界人が異世界に行ってる一方その頃、現実では。
都内某所の喫茶店にて、三人の練能力者が座っていた。
一人は、パーカーを目深にかぶった人物……分断者。
かつて世界魔女ラブマリィを討伐しに、長野県まで行ったが、しかし返り討ちに遭った過去がある。
分断者の前に座るのは、男、そして女の練能力者。
「あ、すみまっせーん。お姉さん、プリンアラモードくださーい! アイスましましで!」
喪服を着た女が、手を振りながら言う。
その隣に座ってる赤い髪の男が、はぁ……とため息をつく。
「【停止者】センパイ……まだ食うんすか?」
「うるさいなぁ。別にいいでしょ?」
喪服の女……停止者の前にプリンアラモードが置かれる。
停止者は一瞬で、食べ終わる。
比喩では、ない。本当に、瞬きしたあとには、プリンアラモードがなくなっていたのだ。
「おねえーさーん! パフェちょうだい! パフェ!」
「停止者センパイ……金持ってるんすよね?」
「もってないよ?」
「ちょっとぉ~~~~~~~~~~~~~~~! もー! まーた、自分が払うんすかぁ?」
赤髪スカジャンの男が、はぁ……とあきれたようにため息をつく。
「しょうがないじゃん、異次元者のせいで、最近商売あがったりなんだから」
異次元者。界人のあだ名のことだ。
練能力者達は、みな能力に応じたあだ名を持っている。
分断者は、視界に入れたどんなものも切断する力がある。
喪服の女、停止者も、その名前に見合った強い力を持っている。赤髪スカジャンも同様だ。
「ねー、まじで殺しの仕事やっちゃだめなの? 赤髪ぃ」
「駄目駄目駄目っすよ停止者センパイ。マジで強いらしいんで、異次元者」
正面に座る分断者が、こくんとうなずく。
「ああ。もうあいつは、強いってレベル遥かに超えてる……」
「っすね。【組織】でも指折りの練能力者である、分断者センパイが負けるんすから」
組織。公安に所属しない、悪の練能力者たちが、集まって形成されてるチームだ。
分断者は赤髪スカジャンが言うとおり、上位の強さを持っていた。
だが、手も足も出ずに敗走した。
……そのうわさは、瞬く間に、裏の世界の住人達に知れ渡った。
「まさか、公安側に、調停官並にやばい練能力者が現れるなんてね。しかも、世界を飛び回ってる調停官と違って、異次元者は日本にとどまってる。やりにくいったら、ありゃしないっすよ」
調停官とは、界人の祖母、ラブマリィのことだ。
彼女は公安所属の、最強の練能力者として畏れられていた。
しかし、その彼女は世界中を飛び回っているため、【抜け】が結構ある。
悪の練能力者たちは、マリィの居ないすきに悪さをしていたのだ。
特に平和ボケしている日本では、悪の練能力者たちの格好の仕事場であった。
……しかし。
異次元者が、出現した。
マリィに匹敵する……いや、それ以上の強さを持った、異次元の能力者の台頭。
それによって、日本の練能力者達の、パワーバランスはひっくり返った。
悪の練能力者達は、みな、畏れた。異次元者を。
「むかつくわ~。まじむかつくわー」
停止者は、不満げに唇をとがらせる。
「調子のってるのがまじでウザい。ちょっと前まで、うちらの時代だったじゃん? なんでそんなガキひとりに怯えなきゃいけないんだよ~。はらたつ~」
停止者は、納得がいってないようだ。
分断者が負けるような、相手が本当にいるかと。
調停官に匹敵する存在が、もうひとり現れるなんて。
「やっぱぶっ殺さない、そいつ?」
「駄目駄目駄目っす、停止者センパイ。死にたいんすか? やめといたほうがいいっす。今はおとなしくしておきましょ」
分断者もうなずいてる。
だが……。
フッ……と停止者が消える。
「あ! やば……あの人また……もうっ!」
赤髪が慌てて立ち上がる。
分断者がため息交じりに言う。
「停止者のやつ……まさかと思うが異次元者のとこへ?」
「多分……」
はぁ~……と分断者が大きくため息をつく。
「忠告はしたからな。おれは……廃業だ」
「え!? ま、マジで廃業するんすか?」
「ああ……もう、自信がなくなったよ。能力者として、あそこまで……格の違いをみせつけられちゃな」
実際の界人と戦った分断者。組織のなかでも上位に君臨する、悪の練能力者が……。
あっさりと、引退を決意する。それほどまでに、界人は強い。
「赤髪よ。停止者の……バディの命が惜しいなら、悪いこと言わない、全力で引き留めた方が良い」
分断者はそう言って、ラインでマップデータを送る。
長野県の山奥の住所だ。そこに、界人がいる。
「忠告ありがとうございますっす! じゃ!」
赤髪はドタバタと走りながら出て行く。
一人残された分断者は、コーヒーをすする。
「殺し屋は廃業だ……。次の仕事はどうするかな……」
ふと、分断者の目に、喫茶店のなかの張り紙が目につく。
【アルバイト募集 喫茶あるくま】
「……バイトでもするかな。すみませーん」
分断者は、黒髪の男子高校生らしきバイトに、声をかける。
こうして、名うての殺し屋、分断者は、完全に裏社会から手を引いたのだった。
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